2022年度の研究では,2021年度までに構築した構造化照明ラマン顕微鏡を用いて,生細胞の超解像ラマンイメージの取得をおこなった。2次元方向に周期構造をもつ格子状の照明光を励起光として用い,それぞれの方向の周期構造の位相を1/3周期ごとに変更しながら連続して5枚の画像を取得し,フーリエ空間での重ね合わせることによって超解像ラマン画像を取得した。励起光の波長は532 nmとし,2900 cm-1付近のCH伸縮振動バンドに対応する波長を観測波長とすることで,脂肪滴やミトコンドリア様の細胞内小器官をラベルフリーで超解像観測することに成功した。一方で,水のOH伸縮振動バンドを観測波長とした場合には溶媒の水からのラマン散乱光が照明光となり,位相差明視野像のような詳細な画像が得られたが,超解像成分を抽出することはできなかった。C H伸縮振動バンドを観測波長としたラマンイメージの空間分解能は,同じ条件で取得したカーボンナノチューブの超解像画像から150 nm以下であると見積もられた。また,構造化照明光による画像1枚あたりの露光時間は25秒であり,合計で2分程度の露光時間で1枚の生細胞の超解像ラマンイメージを取得することができた。 さらに,構築した超解像ラマン顕微鏡を用いて,核内脂肪滴を観測し,細胞質内の脂肪滴とサイズを比較した。また,共焦点ラマン顕微鏡を用いて,それぞれのラマンスペクトルを取得し比較することで,核内脂肪滴と細胞質内脂肪滴のサイズと構成成分の違いについて検討した。
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