研究課題/領域番号 |
19H02669
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
乙須 拓洋 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (90564948)
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研究分担者 |
山口 祥一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60250239)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脂質二重膜 / 蛍光相関分光法 |
研究実績の概要 |
本研究ではモデル生体膜を用い,脂質二重膜上で促進されるアミロイド形成の分子機構理解を目的としている.この課題に対し,2019年度前期はガラス基板上に作製した脂質二重膜(支持脂質二重膜)上で起きるリゾチーム蛋白質の凝集過程を蛍光イメージングにより解析した.その結果,リゾチームと脂質二重膜との相互作用には不均一性が存在することを見出した.これは脂質二重膜中に異なる物性を示すドメインが存在する,もしくはリゾチームが溶液中ですでに様々な形態のオリゴマーを形成していることに起因すると考えられる.その点についてより詳しく調べるために蛍光相関分光法による蛋白質,ならびに脂質の拡散計測を試みたが,リゾチームの結合により支持脂質二重膜の流動性が低下し計測ができなかった.この点については,異なるモデル生体膜を用いた解析を行う予定にしている. 次に蛋白質と脂質の相互作用を脂質の動態変化から研究するための新しい計測法の確立を行った.具体的には,脂質二重膜を構成する2つの単層膜それぞれの脂質拡散計測を定量的に行うための計測法の確立である.実験ではまずガラス基板上に蛍光脂質を少量含んだ支持脂質二重膜を作製する.作製後,脂質二重膜上部のバルク水層に蛍光消光剤であるヨウ化カリウムを添加し,二重膜上側の脂質と下側の脂質に蛍光寿命の違いをつけることで,解析的に信号を分離し解析する.この手法を用いて,支持脂質二重膜中脂質の拡散特性を異なる脂質組成,ならびにpHで網羅的に解析した結果,不飽和脂肪酸からなる脂質二重膜では単層膜間の相互作用が非常に弱いことを見出した.また,同様の解析を別のモデル生体膜である巨大リポソームに対しても行い,ガラス基板非存在下では両単層膜中脂質の拡散は等しくなる,という結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間初年度の目標としていたアミロイド形成過程追跡可能な蛋白質の選定に関して,蛍光イメージング解析をもとに適した蛋白質を選定することができた.また,それらの選定の過程で膜上で形成される凝集体には異なる形態が存在することを見出すことができた.膜上での蛋白質,ならびに脂質のダイナミクス解析について,ガラス基板上に作製した脂質二重膜では流動性が著しく低下したため解析が困難であったが,この点については異なるモデル生体膜の適用により克服することが可能であると考えている. また,脂質二重膜の動態変化を各単層膜選択的に定量的な解析を行える新規分光手法を確立することができた.この手法を適用することで,不飽和脂肪酸からなる脂質二重膜においては単層膜間相互作用が弱いことを実験的に示すことができた. これらの結果をもとに,本研究課題が現時点ではおおむね順調に進展している,と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
ガラス基板上に作製したモデル生体膜を用いた研究より,蛋白質が膜上で凝集体を形成すると脂質二重膜中脂質の流動性が著しく低下するという結果を得た.これは蛋白質存在下により脂質―ガラス間の相互作用が変化していることを意味している.今後はガラスとの相互作用による影響を避けるため,別のモデル生体膜である巨大リポソームを用いて同様の解析を行っていく. また,脂質動態変化の解析について,これまでの研究から脂質二重膜中各単層膜における脂質拡散計測を可能とする新規分光手法の開発に成功した.そこで今後はこの手法をさらに発展させるために,蛋白質検出用のプローブ光を新たに導入する光学系を現装置に加えることで,蛋白質と脂質の同時検出可能な装置の開発を行う.この装置の開発により,凝集体が相互作用している脂質二重膜ドメインにおける単層膜選択的な拡散計測が可能になると期待される.
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