研究課題/領域番号 |
19H02671
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研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
西川 恵子 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (60080470)
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研究分担者 |
森田 剛 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80332633)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動的ゆらぎ / 相転移 / イオン液体 / 超高感度熱測定 / 表面融解 / ダイナミクス / 緩和時間 |
研究実績の概要 |
研究室製作の超高感度示差走査熱量計 (DSC) を用いて,代表的アンモニウム系イオン液体である trimethylpropylammonium bis(fluorosulfonyl)amide ([N1113][FSA])の相挙動を調べた.本装置の温度感度は,±1mK,熱量感度は±2 nW,測定温度範囲は-90~90℃,可能掃引速度は 0.02~3 mK/sである.ちなみに,通常の市販装置より1000倍程度高感度である. 一般的に観測される融解の吸熱ピークと構造緩和の結晶化の発熱ピークの他に,様々な実験条件においても再現性のある強度が1/1000程度の微弱な発熱ピークを観測した.bulk領域の結晶化の後にも,その表面に表面融解 している層が存在し,それが温度の降下とともに構造緩和により結晶化するのが微弱発熱ピークと帰属した.大まかな見積もりによると,表面融解層の厚さは70~200 nm 程度であった.超遅速の掃引で融解現象を観測すると,表面融解層の結晶化を経た場合と経ない場合で異なる融解パターンを示した.すなわち,表面融解した相が結晶化した場合だけ,昇温時にその融解と思われる新たな吸熱ピークの存在を確認した.これらを総合して,表面融解層からできた結晶は,bulk 領域とは異なる構造の結晶が成長していると結論した.表面融解は水では有名な現象であるが,イオン液体では初めての報告である. イオン液体は結晶化しにくいようにデザインされた物質群である.そのため,結晶化させようとすると,様々な特異な現象を示す.表面融解もその一つの現われと思われる.すなわち,結晶化させようとするとストレスが溜まり,それが表面融解層として残るものと思われる.また,結晶構造と液体の局所構造の違いが,非常にゆっくりした相変化と特異な変化現象を示していると結論された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表的アンモニウム系イオン液体であるtrimethylpropylammonium bis(fluorosulfonyl)amideにおいて、想像すらしなかった表面融解とその結晶化現象を超高感度熱測定で捉えることに成功した。また、イオン液体の特性と相転移時のダイナミクスと関連付けて、何故このような特異的な現象が起こるのかの解明に成功した。この観点からは、当初の計画以上の成果と評価される。 一方、熱測定で見いだした現象をNMRの緩和時間測定で測定ることを計画したが、予定通りに進行しなかった。その理由は、発注したNMR 装置が特注品であり、メーカーにとっても初めての試作であった。そのため、装置の完成に時間を要した。また、COVID-19蔓延の影響で、部品の調達や装置完成後の納入・設置・調整などが遅れた。装置は納入されたが、まだ、完全な性能を出すのに至っていない。 上記2つから判断して、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
納品されたNMR装置のできるだけ早い運転を目指す。そのうえで、熱的現象でユニークな現象を捉えた試料について、NMR緩和時間測定からダイナミクスの解明を試みる。
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