研究課題/領域番号 |
19H02671
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研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
西川 恵子 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (60080470)
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研究分担者 |
森田 剛 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80332633)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動的ゆらぎ / 静的ゆらぎ / 相転移 / イオン性柔粘性結晶 / 混合状態 / rotational disorder |
研究実績の概要 |
本研究テーマにつながった長年に渡る「ゆらぎの研究」が評価され、以下の賞を受賞した。:日本結晶学会 西川正治賞「複雑凝集系を対象としたゆらぎの構造科学」 今年度は、以下の2研究に重点をおいた。 1)溶解しているタンパク質構造へのゆらぎが及ぼす効果についての論文発表:2,2,2-トリフルオロメタノール(TFE)水溶液を溶媒としたmelittin(タンパク質の一種)のコイル-ヘリックス転移を対象とした。これまでに行ってきた大量の実験データを纏め、論文として投稿した。TFE水溶液における混ざり具合の不均一さ(濃度ゆらぎ)が、溶存しているタンパク質の構造(特にコイル-ヘリックス転移)に大きな影響を及ぼすことが、濃度ゆらぎとKirkwood-Buff Integralを使って定量的に解明された。論文は受理され、高い評価を得ている(Cover Article として採用)。 2) イオン性柔粘性結晶の構造研究:柔粘性結晶は、構成分子の重心は規則的な構造をとっているが、配向が融解している相で、結晶と液体の中間状態とみなされ、物性的に興味ある相として注目されてきた。構成分子をイオンに変えた場合、イオン性柔粘性結晶(IPC)と呼ばれている。最近では、イオン液体を形成する物質群でもIPC状態がみいだされ、実用的にも大きな注目を浴びている。構成イオンは、その重心の周りに回転していると想像されている。回転状態を含んだX線回折強度の構造因子の定式化を初めて行い、アンモニウム系イオン液体の強度解析に成功した。液体-結晶相転移の中間状態をX線回折現象から捉えたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンモニウム系イオン液体のプロトタイプと位置づけられるTrimethylethylammonium bis(fluorosulfonyl)amide [N1112][FSA]において、複雑な相転移を見出した。結晶相には3種類が存在し、最も高温の結晶相 (Phase I) はイオン性柔粘性結晶相 (IPL相) であることを明らかにした。 IPL相では、固体であるにも関わらず、構成イオンが自由に回転していることをX線回折データより実証した。柔粘性結晶からのX線回折強度の定量的な解析は、本研究が初めてである(学術的成果)。また、液体と通常の結晶の中間状態を得たことにより、液体-結晶の相転移を詳細に調べることができる試料を得たことになる。今後、この相をNMRなどの別の実験手法で測定し、ダイナミクスを調べるのに、良いターゲットになると思われる(今後の研究の発展性)。 ダイナミクスについての直接的な情報を得ることを計画しているNMR実験が遅れている。一つには、今まで利用していた共同利用施設の装置が、コンピューター制御機構の不具合とOSのミスマッチで使えないこと、導入したNMR装置が順調には動かず、新型コロナ禍などで、装置立ち上げ・修理・改造などで装置メーカーとの交渉が滞っているためである。
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今後の研究の推進方策 |
現在対象としている柔粘性結晶は1試料のみであるが、数種類の試料へと拡大する。新たに開発した方法論を複数の試料に適用し、有用性を検証する。また、複数の試料を扱うことにより、ダイナミクスを観測しやすい系などを選ぶことができ、用いる実験手法も広がると思われる。想定している試料の中には、固体電解質としても注目されている試料もあり、学術面はもとより応用の面からも成果が期待される。 実験や広域での共同研究は、新型コロナ禍のため制約が大きいが、実際に活動できる体制を構築できるように努める。
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