研究課題/領域番号 |
19H02673
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長岡 正隆 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (50201679)
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研究分担者 |
小池 亮太郎 名古屋大学, 情報学研究科, 助教 (20381577)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子シミュレーション / ph, 分子夾雑状態 / Motion Tree method / ビックデータ解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、これまで独自に開発してきた配置選択定pHを用いて、溶液pH環境下での分子凝集や生体分子機能を理論的に明らかにする一般的方法論を確立することである。具体的には、①分子集合状態で起こる化学反応に対する水素イオン指数(Potential hydrogen、pH)依存性を取り扱える効率的な定pH法(配置選択定pH法)を確立すること、②その定pH法を適用して得られる、ミクロ運動ビッグデータと運動樹(Motion tree、MT)法を用いて、pH変化に伴って変化する分子凝集や生体分子機能を分子論的に解明することの二つである。 第1年次は、QM/MM-CS-CpH法を開発し、水性アルミニウム系やカルボン酸系での分子凝集機構に関するpH依存の濃度特性に応用した。多段階のプロトン化反応によって遷移する水和アルミニウム錯体系での水和数変化を再現することができた。無機分子におけるpH依存性や濃度依存性については、従来の定pH法を用いた研究では十分に調査されておらず、本年度の研究業績は理論化学的に意義深い。また、これまでは古典的な分子力場が用いられていたが、アルミニウム錯体のような金属錯体系では、典型的な化学結合系とは異なった、それらを適切に記述するための手法についての知見が得られた。同時に、溶質分子を量子力学(QM)的に取り扱うことで、分子内構造変化や微視的な溶媒和に対応する分極効果も取り込むことが可能となり、今後、さらに複雑なシステムへ応用する上で極めて重要であると考えられる。加えて、非定常MT法や時系列クラスタリング解析法をヘモグロビン(HbA)の二状態構造間の状態遷移トラジェクトリに対して適用して、非定常トラジェクトリにおける構造変化パターンを抽出することの有用性を示すことができた。これらの成果に関連して、今年度、国内学会での1件の招待講演を含めて、4報の研究報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の令和元年度において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大にともない、関連学会の延期や対面での共同研究の打ち合わせなどの中止などに見舞われ、当初の研究計画や実施方法については変更を余儀なくされた。それに伴い令和元年度の研究予算執行の繰越しを行った。幸いなことに本研究事業は、大型計算機を用いた研究計画であり、リモート形態での研究推進・共同研究における議論へを併用することができたため、当初の計画以上に進展することができた。 本年度ではpH依存性や濃度依存性の計算化学を可能とする、プロトン化変数を離散化した定pH-MS法(配置選択定pH-MS法)を確立する基盤的研究開発の計画および、タンパク質構造の非定常トラジェクトリからの立体構造的特徴の自動的抽出法を確立し、生物化学機能との関係性を明らかにした。本手法の汎用性を示すために、溶液pH環境下での分子凝集や生体分子機能を理論的に明らかにする一般的方法論を確立するための基礎開発研究および応用計算を実施した。さらに、ヘモグロビン(HbA)の2状態構造間の状態遷移トラジェクトリを分類するために、時系列クラスタリングのひとつである動的時間伸縮法(Dynamic Time Warping)を応用した構造変化の振る舞いを経時変化から捉える解析方法の開発を推進した。これは最終年度での酵素反応系におけるpH依存性の解明と遷移状態制御の確立に向けた研究に対して密接に関連すると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度においては、本年度で実施することになっていた研究計画をさらに発展させることを目指して、非平衡MT法のための多数アンサンプルのサンプリングを実施する。さらに、時系列クラスタリングのひとつである動的時間伸縮法(Dynamic Time Warping)をトラジェクトリデータに融合することで、非定常トラジェクトリからの立体構造的特徴の自動抽出法を確立し、生物化学機能との関係性を明らかにすることを目指す。 さらに、ヘモグロビンタンパク質のイオン性エフェクター分子の濃度変化による機能調節を明らかにするために、エフェクター分子濃度を変化させた場合の構造変化パターンの時系列クラスタリング解析へと応用する。タンパク質構造の動的な構造変化パターンを明らかにし、アロステリック制御機構の解明へと応用することで、原子群の座標・速度の時系列数値データ(ビッグデータ)から高次構造の時間変化を解析する手法の有効性を検証する。加えて、得られた研究成果を学術論文としてまとめ、国際学会へと成果報告を行う。
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