研究課題/領域番号 |
19H02676
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
久保園 芳博 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (80221935)
|
研究分担者 |
JESCHKE HARALD 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任教授 (10800211)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 圧力 / キャリア注入 / 2次元層状物質 / トポロジカル絶縁体 / 超伝導 / 圧力誘起超伝導 / ディラック半金属 / ワイル半金属 |
研究実績の概要 |
本研究は、キャリアドーピングされた多様な2次元層状物質における新規な超伝導相を、常圧から200 GPaに渡る広い範囲の圧力下で探索し、得られた圧力誘起超伝導相の示す興味深い特性を解明するともに、その超伝導の発現機構を明らかにすることを目指すものである。この目的のために、2020年度は、液体アンモニア法などの方法を、トポロジカル絶縁体を始めとする多様な2次元層状物質に積極的に適用して、多種多様な超伝導体を実現し、それに圧力を印加して、新規な超伝導相を実現することとした。 また、トポロジカル絶縁体のみならず、ディラック半金属ならびその関連化合物への金属原子ドーピングを高温合成法によって実施して、得られた物質に圧力を印加することで、多様な新規超伝導相を実現していくことを研究目標とした。更に、理論的なアプローチも併用して、超伝導のクーパーペアの対称性について切り込むものとした。 この研究目標を達成するために、ディラック半金属であるA3Bi(A: アルカリ金属原子)に類似したBi化合物であるKBi2をアンモニア法によって合成することに成功し、その超伝導特性を調べた。更に、RbBi2やCsBi2についてもアンモニア法により合成し、それの圧力下での超伝導特性を調べた。また、ディラック半金属と理論的に示唆されているBaTi2Bi2Oの圧力下での超伝導特性を詳細に調べた。その結果、圧力下での超伝導が、トポロジカルに非自明であるとの実験的な証拠を得た。また、類似物質であるBa1-xNaxTi2Sb2Oの圧力下での超伝導特性を調べて、圧力下での構造相転移と、それに連動した新規な高圧超伝導相の出現を確認した。更に、2種類の結晶構造を有するトポロジカル絶縁体であるPdBi2のβ相の高圧での超伝導特性を調べ、もう一方の結晶相(α相)との高圧における相関を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度は、トポロジカル絶縁体やディラック半金属、ならびに関連した物質系を基礎とした超伝導物質を多数合成することに成功した。とくに、従来から用いられてきた高温アニール法のみではなく、アンモニア法などの液体を使った新規な超伝導物質合成を、トポロジカル絶縁体およびその関連物質などにも適用することに成功した。得られた物質について、圧力下での超伝導特性を詳細に調べた。いくつかの物質については、圧力下での超伝導転移温度が、常圧よりも上昇することを見いだすとともに、その際に圧力誘起構造相転移が生じることなどを見いだした。すなわち、超伝導と構造の相関関係を見いだすことができた。また、Biを含まないキャリアドープ量が精密に制御されたSb2Te3-ySeyのようなトポロジカル絶縁体の圧力下での超伝導特性を詳細に解明することができた。その際にも圧力の印加による構造相転移によって新規な超伝導相が現れることを見いだした。トポロジカル絶縁体であるPdBi2のβ相の高圧での超伝導特性を調べ、もう一方の結晶相(α相)との高圧での相関を明らかにした。このように複数の結晶相がトポロジカル絶縁体である物質の圧力下での超伝導特性を詳細に調べることができた。なお、圧力下での超伝導相については、超伝導転移温度の磁場依存性から、トポロジカルに非自明であるか否かを徹底的に調査し、ディラック半金属やトポロジカル絶縁体を起源とする超伝導が、トポロジカルに非自明であることを実験的に立証した。このように、研究の目標とした「キャリアドーピングを通じた多種多様な超伝導相の実現と、圧力下での超伝導特性の解明」や「トポロジカル絶縁体のみならずディラック半金属を基礎にしたキャリアドープを通じた超伝導物質作製と、圧力下での超伝導特性の解明」について、当初の計画以上に研究が進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は、本研究課題の最終年度であるため、2次元層状物質のキャリアドーピングによって多種多様な超伝導相を開拓するとともに、それへの圧力印加を通じた新規な超伝導相の実現、その超伝導相の特性解明ならびに超伝導発現機構に関する研究を展開し、研究課題の最終目標である「物理的に興味深い超伝導相の開拓」を達成する。 本年度は、とくに、これまで行ってきたトポロジカル絶縁体やディラック半金属に加えて、ワイル半金属を研究対象として、それへの金属ドーピングによるキャリア注入による新規な超伝導相の開拓と、鉄や遷移金属カルコゲナイド系物質への多様な金属のキャリアドーピングを行う。また、それらの物質に印加する圧力の範囲を、従来の30 GPa程度から増大させる。なお、ホール効果測定は、圧力下でも実施し、圧力誘起超伝導の直接的な起源を探索する。また、スピン軌道相互作用を取り入れた第一原理計算やスピン揺らぎ理論を使って、圧力に対するバンド分散やフェルミ面形状の変化を調べて、ホール効果の結果との比較検討を行う。更に、得られた超伝導相が、トポロジカルに非自明な超伝導であるのか否かを、実験と理論の両面から徹底的に調べる。具体的には、実現した超伝導相の精密なX線構造解析を実施して、その構造データを使って理論計算を実施し、トポロジカルに非自明な超伝導であるかを理論的に明らかにする。実験的には、超伝導転移温度の磁場依存性を詳細かつ精密に測定して、超伝導の対称性を調べる。このように、本年度は、対象とす2次元層状物質の種類を増やすとともに、印加する圧力の範囲を増加させて、更に多様な超伝導相を実現する。また、ホール効果、ARPES、NMRなどの実験手段を使って、超伝導の発現する起源と、超伝導の対称性の解明を進める。ここに示した研究推進方策をもって、当該研究課題を成功裏に達成することが、本年度の重要な研究テーマである。
|