研究課題/領域番号 |
19H02678
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
迫田 憲治 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80346767)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 微小液滴 / イオントラップ / 蛍光測定 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,蛍光顕微分光を用いて,生体関連分子の構造変化を高い時空間分解能で明らかにすることを目的としている。これを達成するためには,蛍光検出効率の向上が必須である。我々は,大気中に空間捕捉した単一微小液滴が示す光閉じ込め効果を利用することによって,蛍光検出効率の向上を目指している。 単一微小液滴を大気中で長時間安定に捕捉し続けるためには,液滴捕捉環境の制御,特に温度と湿度の管理が必要である。前年度の研究で製作した液滴捕捉チャンバーを用いることによって,液滴からの溶媒の蒸発を抑制することには成功したが,当初想定していた性能には達していなかった。特に溶媒の蒸発抑制が不十分な点と,液滴の捕捉位置が安定しないことが大きな問題であった。今年度の研究では,(1)液滴捕捉チャンバーの内容積を従来のものの半分以下にする。(2)液滴を捕捉するためのイオントラップ電極を小型のエンドキャップ電極に変更する。以上の2点を改良した新たな液滴捕捉チャンバーを設計,製作した。 装置の性能評価を行うために,液滴中に溶存する量子ドットからの蛍光スペクトルを連続測定した。液滴径の時間変化を追跡したところ,従来の装置に比べて液滴の蒸発速度が有意に減少していることが確認できた。また,液滴の体積減少率の周波数および電圧依存性を調べた。印加電圧を1.0 kVppに固定し,印加周波数を3700 Hzから下げていくと明らかに蒸発速度は低下していき,3000 Hzで最小になった。また,3000 Hzおよび3500 Hzに周波数を固定したときの体積減少率の電圧依存性を調べた。どちらの周波数においても蒸発速度に対する電圧依存性は観測されなかった。以上より,印加電圧を変えても液滴からの溶媒の蒸発速度に与える影響は少ないが,印加周波数を低くしていくと蒸発速度も低下し,ある周波数で最も遅くなることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ,(1)新規の液滴捕捉チャンバーの再設計・製作,(2)液滴捕捉チャンバーの性能評価,(3)新規チャンバーを用いた実験データ(蛍光スペクトルの連続測定),(4)実験データの解析,以上の4項目について,ほぼ,変更後の研究計画のスケジュールに沿って研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は今年度までの研究によって開発がほぼ完了した液滴捕捉装置を用いて,大気中に空間捕捉した単一微小液滴の長時間蛍光連続測定を行う。これによって,液滴のサイズが連続的に変化したときの溶存分子(蛍光分子)の空間分布や配向方向が液滴のサイズにどのように依存するかを解明する。 つぎに色素標識したシトクロムcを溶存した単一微小液滴の顕微蛍光測定を行う。時間相関単一光子計数法を用いて,微小液滴に溶存した色素分子の蛍光寿命を測定することで,液滴径に対する蛍光寿命の変化を定量的に明らかにする。 さらに,ドナー分子とアクセプター分子によって二重標識されたシトクロムcを準備し,標識色素分子の蛍光寿命を測定することによって,微小液滴内部における蛍光励起エネルギー移動(FRET)を観測する。これにより,液滴径に対するFRET効率の変化を明らかにする。
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