研究課題/領域番号 |
19H02680
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
長坂 将成 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 助教 (90455212)
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研究分担者 |
足立 純一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究機関講師 (10322629)
手老 龍吾 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40390679)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軟X線吸収分光法 / 光化学系IIタンパク質 / 時間分解測定 / 光合成反応 / 液体 |
研究実績の概要 |
天然の光合成反応の機構を解明するには、光化学系II (PSII)タンパク質の酸素発生中心と水の分子間相互作用を調べる必要がある。そのために、水とPSIIの主要な元素の電子状態を調べることができる軟X線吸収分光(XAS)測定と、タンパク質包含脂質二重膜の調製法を組み合わせ、膜タンパク質であるPSIIが機能を発現する状態でのXAS測定を実現することを目的とする。 本年度は液体セルを構成する窒化シリコン膜にPSIIタンパク質を含む脂質二重膜を担持する方法を確立した。PSIIタンパク質は葉緑体のチラコイド膜中に含まれる膜タンパク質であり、脂質二重膜内に包埋された状態で正しい構造と機能が維持された状態になっている。そして、PSIIタンパク質が機能を発現する状態で、Mn-L, Ca-L, O-K吸収端XAS測定を実現した。これにより、PSIIタンパク質中の酸素発生中心由来のピークの観測に成功した。また、XASのピーク帰属を行う基礎データを取得するために、アセトニトリル水溶液などの数種類の液体試料のXAS測定も行った。 更に、本研究では、PSIIタンパク質の光合成反応の超高速XAS測定の実現を目標としている。今年度はフェムト秒レーザーと放射光の同期による測定システムの準備を進めた。また、この測定システムに接続できる液体試料のXAS測定装置を開発した。信号/バッグラウンド比を改善するため、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所Photon Factoryにおいて得られる約70 psパルス幅の高強度パルスを、約 230 kHz 周期へと間引きを行なう装置を完成させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の計画通りに、液体セルを構成する窒化シリコン膜にPSIIタンパク質を含む脂質二重膜を担持する方法を確立した。これにより、PSIIタンパク質中の酸素発生中心由来のピークの観測に成功した。また、PSIIタンパク質の光合成反応の超高速XAS測定を実現するために、フェムト秒レーザーと放射光の同期による測定システムの準備を進めた。更に、この測定システムに接続できる液体試料のXAS測定装置も開発した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方として、まずは高い信頼性でPSIIタンパク質のXAS測定が行えるように、ガスフィルターのテストを行う予定である。更に、PSIIタンパク質中の酸素発生中心と水の分子間相互作用を調べるために、内殻励起計算を基にして、XASスペクトルの解析を推進する。 また、開発した溶液光化学反応の超高速XAS測定システムを用いて、クロロフィルa溶液の光化学反応を調べる。ここで、Mg-K吸収端とN-K吸収端から、金属錯体の中心金属と配位子の両側から、光励起による局所電子構造の変化を議論できるようにする。これにより、PSIIタンパク質の光合成反応の超高速XAS測定のための基礎を確立する。
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