研究課題/領域番号 |
19H02682
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
Fedorov Dmitri 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (60357879)
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研究分担者 |
西本 佳央 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 特定助教 (20756811)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電子状態 |
研究実績の概要 |
今年度は、FMO-DFTB/PBC法を用いてのエネルギー計算と解析的一次微分(勾配と応力テンソル)をGAMESS-USと呼ばれる量子化学計算パッケージを用いて実装した。一次微分の計算ではself-consistent Z-vector方程式と呼ばれる方程式を解くことで、完全に解析的な計算を可能にした。ここまでの研究により、FMO-DFTB/PBC法を用いての構造最適化や分子動力学シミュレーションが実現可能となった。 DFTB法がHOMOとLUMOの隙間を過少評価する為、荷電系の計算は電子状態が決められない等の問題がある。長距離補正を導入することよって、その問題の解決が出来る。FMO-DFTB法に長距離補正を加え、解析的勾配を完成させた。それは、特に蛋白質の結晶の計算に必要で、今後のFMO/PBC法に不可欠な開発である。 従来の水和中荷電系内相互作用で、溶媒による遮蔽効果の計算に全系の誘起電荷が使われてきた。しかし、逆符号のフラグメント間の寄与は相殺されてしまうため、溶媒による遮蔽効果が過少評価されてきた。フラグメント毎に誘起電荷を決め、溶媒の遮蔽効果を計算する手法を開発した。 溶媒中蛋白質とリガンドの複合体の構造を計算で予測するには実空間での静電場の情報が役立つ。真空中の計算に、溶媒による静電場の遮蔽を加え、溶媒中の静電場の計算を実現した。現在FMO-DFT法で実装されているが、将来的にはFMO-DFTB/PBC法に拡張する事で、本研究課題でも役立てることが可能である。 計算法の開発をGAMESSのプログラムへ実装し、無償開発する為にGAMESS側へ2019年11月に提供した。次版で2020年6月に公開される予定である。 本課題で開発した計算法とプログラムの改良を出来るだけ広く発信する為、Springerが2020年2月に出版した著書で二章発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画では、分子用のFMO-DFTB法を拡張させ、周期的境界条件を用いることができるようする(FMO-DFTB/PBC法の開発)こととしていた。実際に、今年度はFMO-DFTB/PBC法のエネルギーと解析的勾配の導出と実装を行った。これにより構造最適化計算が可能となり、大規模分子の構造を得ることが可能となった。さらに、分散力補正を行う事ができるようになっており、次年度以降で行う予定となっている応用計算に向けての準備が整いつつあると言って良い。計画では相互作用解析により現象を解明するとしていた。それに対して、今年度行った周期的境界条件無しの場合における水和中相互作用解析は、今後周期的境界条件を用いた場合での開発に役立つと考えられる。LC-DFTB法の開発は、今後PBC法を用いた場合へと拡張し、蛋白質の結晶へ応用することが可能になる。 以上を踏まえ、現在までの進捗状況は、順調に進行していると言って良い。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度開発したFMO-DFTB/PBC法の高速化を行うことを考えている。また、FMO-DFTB/PBC法の実装は完了しているが、その理論の妥当性や精度の検証は不完全であるため、十分な検証を行っていく必要がある。さらに、構造最適化のみならず分子動力学シミュレーションを可能にすることが重要と考えており、こちらに関しての理論拡張を進める必要があると考えている。 これまでの研究で、単位胞内の原子座標を最適化することができるようになったが、結晶の計算では単位胞自体を最適化する必要がある。そのために、単位胞の長さによる解析的微分を開発することで、エネルギーの極小を探索し単位胞の最適化が可能になる。こうして得られる長さを実験と比較することもできるようになるだろう。
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