研究実績の概要 |
本研究では、素粒子ミュオンを利用した高エネルギー開殻分子の創成を目的としている。1)リン複素環一重項ビラジカルである1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイルについて、以前見出しているミュオニウム(= 軽水素原子相当)付加体の場合とは異なる反応位置選択性について検討することとし、TRIUMFサイクロトロン施設で横磁場ミュオンスピン回転(TF-muSR)およびミュオン準位交差共鳴(mu-LCR)測定実験を行った。その結果、シグナル強度が小さいために完全な同定は難しいものの、リン上にミュオニウムが付加して新たなラジカル種が生成している可能性を見出した。また、1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイルのリン上置換基を同一アリール基とした誘導体について測定を行ったところ、リン上へのミュオニウム付加体に相当するシグナル強度が小さいながらも観測された。当研究室で所有する化合物ライブラリーを活用すれば、これまでのところ観測されていない、形式的にラジカル中心となっている骨格炭素上へのミュオニウム付加が見出される可能性がある。 2)1,8位にトリフルオロメチル基を導入して安定化した9-ホスファアントラセンを用いて測定実験を行い、単一のラジカル種の生成を確認した。高周期アントラセン誘導体の合成については、条件最適化に関して若干の進展があった。 3)ジフルオロメチル基を導入したホウ素化合物の合成を進めた。この合成では、ミュオニウム付加が起こる位置を限定するために不飽和部位を可能な限り省いた分子設計を採用した。合成したジフルオロメチルホウ素化合物は、正電荷を有するホウ素上へのミュオニウム付加によって独特のラジカル種が生成する可能性があり、これはジフルオロメチル化合物を合成する際のラジカル的CF2H導入法開発や、ヒドロキシラジカル等価体のソースとして活用できると考えられる。
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