研究実績の概要 |
本研究では、素粒子ミュオンを利用した高エネルギー開殻分子の創成を目的としている。令和2年度は、新型コロナウイルスの影響でミュオンを用いた測定実験は遠隔条件で行ったが、以下の成果を得ている。 1)リン複素環一重項ビラジカルである1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイルについて、以前見出しているミュオニウム(= 軽水素原子相当)付加体の場合とは異なる反応位置選択性について検討することとし、リン上に電子求引性の複素環置換基を導入した誘導体の固体を試料として、TRIUMFサイクロトロン施設で横磁場ミュオンスピン回転(TF-muSR)測定実験を行った。その結果、これまでに見出しているミュオニウム付加体と比べてミュオン超微細結合が顕著に小さいラジカルが二種類観測された。DFT計算を行ったところ、リン複素環ビラジカルの骨格炭素上にミュオニウムが付加して対応する炭素中心ラジカルが生成していることを同定した。これは、1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイルの開殻状態を明確に示す知見である。 2)ジフルオロメチル基を導入したホウ素化合物のミュオンスピン回転・共鳴測定を試みた。その結果、予想された明確なシグナルを観測することが困難であった。これは、ジフルオロメチル化されたホウ素部位とミュオニウムの反応速度が、立体混雑のために小さいことが大きく影響していると考えられる。
このほか、新たなミュオンスピン回転・共鳴の対象となる化合物の合成を進めた。同定に成功した高周期ブタジエンの二量化反応は、ミュオンを用いた研究に展開可能である。
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