研究課題/領域番号 |
19H02686
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊藤 冬樹 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (80403921)
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研究分担者 |
岡島 元 青山学院大学, 理工学部, 助教 (20582654)
坂本 章 青山学院大学, 理工学部, 教授 (90262146)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 有機分子集合体 / アモルファス / 有機結晶 / 相転移 |
研究実績の概要 |
本研究課題では溶媒蒸発結晶化過程における蛍光変化の研究で未解決なアモルファス状態において大きくストークスシフトした発光を示す理由,液滴状クラスターとアモルファス状態は同様の集合構造・状態であるのかについて検討するため,分子間相互作用を変調させる誘導体の設計・合成と溶媒蒸発結晶化過程の蛍光可視化ならびに低振動数ラマン分光に基づく構造解析を実施した.今年度は特に,ハイパースペクトルカメライメージングでの検討に加え,BF2DBMの誘導体である1,3-bis-(4-methoxyphenyl) methanatoboron difuluoride を適用し,溶媒蒸発結晶化ならびに再沈後の蛍光変化に基づき分子集合化・相転移過程について検討した. 良溶媒であるアセトンに溶解した分子を,貧溶媒である水へ再沈した後の蛍光変化を観測した.再沈直後,ナノ粒子分散液は黄色の蛍光を示した.この分散液の発光は時間の経過とともにシアン色を経由し緑色へと変化した.このことは,再沈直後にアモルファスを形成し,時間の経過とともにシアン色発光相を経由して緑色発光相へと転移したことを示唆している. 結晶化過程ならびに蛍光スペクトルの温度依存性から,シアン色発光相は速度論的に安定な準安定相であり,緑色発光相は熱力学的に安定な相であることがわかった.Ostwaldの段階則によると,準安定相は安定相の発現の前に生じる.つまりシアン色発光相から緑色発光相への転移は,Ostwaldの段階則にしたがう結晶-結晶相転移を蛍光可視化したものと結論づけられる.さらに本手法は,蛍光性有機固体の多形確認の簡便な方法となり得る. さらに,蛍光励起スペクトル顕微鏡を新たに設計し,溶媒蒸発結晶化過程での不均一な析出物について数マイクロメートルの空間分解能をもつ蛍光励起スペクトル測定系の構築を達成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1画素ごとにスペクトル情報を取得可能なハイパースペクトルカメラを用いて溶媒蒸発結晶化過程における領域ごとのスペクトル変化の測定に成功した.ハイパースペクトルカメラを結晶化過程の研究に新たに導入できた.しかしながら,共同研究先との往来が難しくなり,研究代表者研究室のみで実施可能な内容に変更した.当初計画とは完全に対応しないテーマであるにもかかわらず,有益な情報が得られたため,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染症対策にともなう,往来の自由度が回復しだい,新たに合成適用した分子に関する分子軌道計算を通して,凝集誘起発光分子の励起状態に関する知見を得て,溶媒蒸発結晶化過程における分子からバルクへの変化に対する階層性を明らかにする.また低振動数ラマン分光測定に基づく構造解析を実施する.
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