研究課題/領域番号 |
19H02692
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
深港 豪 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (80380583)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フォトクロミズム / 近赤外光 / 可視光フォトクロミズム / ジアリールエテン / 三重項 |
研究実績の概要 |
近年、生体イメージングや超解像イメージングへの応用の観点から、可視光や近赤外光でフォトクロミック反応を示す分子の開発が重要となっている。そのような中、我々のグループでは、ペリレンビスイミド(PBI)色素を連結したジアリールエテン(DAE)誘導体が、PBIユニットのみが光励起される可視光域(450-550 nm)の光を照射すると、その波長に吸収を持たないDAEユニットの光閉環反応が進行することを見出している。 これまでの当該課題研究により、この特異な可視光フォトクロミズムに三重項が寄与している可能性を示唆する結果が得られている。当該年度の研究では、これまでの研究で得られた知見に基づき、さらに高効率な光反応を示す分子を設計・合成し、その光反応性を評価することで、我々が提案する光反応メカニズムの妥当性を検証することを目的とした。 分子軌道計算によりPBIユニットの一重項励起エネルギー準位よりも低いエネルギー準位に三重項のエネルギーをもつDAE誘導体を予測し、それらを連結した蛍光性ジアリールエテン誘導体をいくつか合成した。合成した分子の光反応性を評価した結果、DAE誘導体の三重項エネルギー準位がPBIの一重項励起エネルギー準位よりも十分低い化合物ほど、より高効率な光反応性を示すことが認められた。これらの結果から、我々が提案するPBIの励起一重項からDAEの三重項エネルギー準位に直接エネルギー移動が生じ、そこから光反応が進行するというメカニズムの妥当性が実験的に支持されているものと考えられる。さらに、この結果を応用することで、さらに長波長側に吸収バンドをもつPBI誘導体を用いることも可能となり、さらに長波長側の可視光により光閉環反応を誘起できることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、特異な光反応に対するメカニズムはほとんど明らかとなってきている。加えて、その結果を応用することでさらに長波長側の可視光により、ジアリールエテン誘導体の光閉環反応を誘起できることも見出している。 これらの結果は目的とする近赤外光による光閉環反応の実現に着実に近づいていることを示唆するものと考えられる。従って、現在までの研究進捗状況としては、当該研究はおおむね順調に進展しているものと評価できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり、これまでの研究において、スイッチングユニットが吸収を持たない可視域の光で光反応が進行するという特異な光反応が、どのような環境条件や分子構造で起こったり、起こらなかったりするのかについて多くの知見が得られている。 今後はそれらの知見を基に、この特異な光反応の反応効率をさらに向上させ、光反応対する波長感受性を可能な限り長波長化することを目的に研究を進める。具体的にはスイッチングユニットであるジアリールエテンの三重項エネルギー準位と蛍光色素の一重項励起状態のエネルギー準位を最適化し、それらを適切なスペーサーユニットで結合させた分子を合成する。また合成した分子の光反応性を詳細に調べることで、最適な分子設計指針を明らかなものとする。過渡吸収や理論計算などにより、本研究で得られる光反応メカニズムを紫外光を必要としないスイッチング分子を設計する上での普遍的なツールとして確立させることをめざす。
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