研究課題/領域番号 |
19H02693
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
湯浅 順平 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 准教授 (00508054)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非閉鎖系空間 / 希土類錯体 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
本申請研究の目的は、環状希土類錯体を拡張した柔軟な非閉鎖系ナノ空間を創出することである。この非閉鎖系空間はフラーレンやカーボンナノチューブなどのπ電子系化合物の捕捉に適した0.72-1.41 nmの疎水性空間をもつ構造体の構築を目指す。希土類錯体はその特徴として、配位子と金属イオンとの結合はイオン結合性が支配的であり結合に柔軟性がある。そのためゲスト分子のサイズや大きさに応じて構造とサイズを変調できる柔軟なナノ空間の創出が可能である。そのためには希土類錯体の柔軟性を活用した超分子ライバラリーの作成が必要である。このような背景のもと今年度は以下の研究をおこなった。柔軟性をもつ1次元状2核希土類錯体を分子認識のメディエーターとする超長距離分子認識システムの構築:希土類イオンと親和性の高いジケトン配位子をスペーサーを介して2つ導入したビスジケトン配位子を合成し、希土類イオンと錯形成させることでLn2L3型の1次元状2核希土類錯体を構築した。このLn2L3型錯体に対してキラルゲスト配位子として、R-およびS-体のキラルビスオキサゾリン配位子を作用させ、メディエーターを介したキラル分子認識について調べた。その結果、2つのジケトン配位部位は1 nm以上の距離で隔てられているにも関わらず、Ln2L3型錯体に対して同符号のキラルゲスト分子を認識するキラルセルフソーティングの機構が優勢的に進行することを明らかにした。本研究の成果を、Royal Society of Chemistryが刊行する旗艦雑誌、Chemical Scienceに報告した(Chem. Sci. 2021, 12, 8746-8754)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は以下のような観点から概ね順調に進行している判断される。本申請研究の目的は、環状希土類錯体を拡張した柔軟な非閉鎖系ナノ空間を創出することである。この目的を達成するため、これまでに内部に特異な空間を有する環状多核希土類錯体の構造ライブラリーの構築に成功している。これらの環状多核希土類錯体の構造の多くはX線結晶構造解析によってその絶対配置をすでに決定している。また、質量分析、1H NMR、円二色性スペクトル等の分光法による分析により、溶液中においても安定に構造を保てることを明らかにしている。このような溶液中における環状多核構造の安定性はhost-guest認識をおこなう際の必須的な要件であり、本研究で開発に成功した環状希土類錯体のライブラリーは概ねこの要件を満たしている。さらに、希土類錯体に特徴的な柔軟性について、申請者は1次元状2核希土類錯体を構築し、このLn2L3型錯体をキラル分子認識の足場(メディエーター)とすることで同符号のキラルゲスト分子を認識するキラルセルフソーティングの機構が優勢的に進行することを明らかにしており、その成果をすでに論文として報告している(Chem. Sci. 2021, 12, 8746-8754)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、内部に特異な空間を有する環状多核希土類錯体の構造ライブラリーの構築に成功している。またこの環状多核希土類錯体が溶液中においても環状構造を安定に保てることを、質量分析、1H NMR、円二色性スペクトル等の分光法により明らかにしている。さらに今年度の知見として、希土類錯体の構造柔軟性がキラルゲスト分子の認識の認識において重要な役割を果たすことを明らかにした。これらの先行知見を踏まえて、今後の研究の推進方策として、これまでに開発に成功した環状多核希土類錯体の構造ライブラリーとゲスト分子との分子認識機構について調べる。具体的には、ゲスト分子として主にπ電子系ゲストおよび負電荷をもつアニオンゲストを用いて環状多核希土類錯体よの分子認識、選択性について調べる。環状多核希土類錯体とゲスト分子との相互作用は1H NMRによる滴定実験およびX線結晶構造解析によるhost-guest構造体の直接検出を試みる。
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