研究課題/領域番号 |
19H02694
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
折笠 有基 立命館大学, 生命科学部, 教授 (20589733)
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研究分担者 |
大石 昌嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (30593587)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 全固体電池 / 固体電解質 / 放射光 / CT / イメージング / 拡散 |
研究実績の概要 |
全固体二次電池では、液体電解質を用いるリチウムイオン電池と比較した際に、(A) 電解質の濃度変化がないことによる、電極厚さの劇的な向上、(B)物理的に樹脂状析出を抑制することによる、金属負極を利用した二次電池の実現、が期待されている。しかしながら、基礎的な反応機構をベースに、反応を的確に制御する理論体系は構築されていない。本研究では、全固体二次電池の内部現象を可視化することにより、通常の充放電測定で得られる電気信号と、電池内部における反応現象を関連付けることを目的とした。 前年度に得られた、合剤電極内のイオン動的挙動のデータをより詳細に解析することで、合剤電極設計のために必要なパラメータを抽出した。合剤電極中のイオン拡散を評価するために、定電位放電中の電極内のイオン濃度変化をX線イメージング法で観察し、電極深さ方向への反応端の移動をイオンの拡散と見立てて、反応端移動係数を定義した。得られた反応端移動係数は、合剤電極の厚みには依存せず10-7 cm2 s-1程度の値であった。一方で、移動係数は合剤電極に占める活物質と電解質の重量比に依存し、活物質の割合が50 wt%では10-7 cm2 s-1程度であったが、90 wt%では1桁程度減少し、活物質重量比の増加と共に減少する傾向が確認された。この値をランダムな粒子の拡散と仮定し算出された拡散長が、放電レート特性とよく一致した。また得られた移動係数は、合剤電極内のイオン伝導パスの屈曲度を考慮して算出された実効的な拡散係数と良い一致を示したことから、電極中のイオンパスの屈曲度を含む深さ方向への反応進行を示す係数であることが判明した。さらに、樹枝状金属の析出挙動を観察するために、オペランドX線コンピュータトモグラフィー(CT)法を適用させ、全固体二次電池の金属析出解析用に手法確立を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の研究計画は以下のとおりである。 正極活物質として、銀イオン挿入脱離が可能であると報告されているTiTe2を用い、固体電解質にはAg6I4WO4、負極はAg粉末を用いて、圧粉体のペレットを組み合わせた全固体電池モデルを作製する。特に、正極厚みを変えることによる充放電反応速度の変化を計測する。このセルを、放射光施設のSPring-8へ持ち込み、X線透過イメージング像を充放電反応中に計測する。電極断面方向からX線を入射し、透過したX線を二次元検出器で計測する。電気化学的に正極活物質の組成を電位で制御し、電位を変えた際の、電極中の銀イオンの動きをリアルタイムで追跡する。これにより、従来では計測できなかった、実用電極中での、実効的な拡散係数を算出する。材料のパラメータを動かし、それぞれの物性が、電池特性に与える影響と実効的な拡散係数との差を検証する。 実績の概要で述べた結果が得られていることから、予定通り研究計画が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
全固体電池の金属負極を利用するための解析手法を検討する。樹枝状金属の析出挙動は、析出前の場所を的確に把握して、その成長過程を連続的に観察することが重要である。これを実現するために、オペランドX線コンピュータトモグラフィー(CT)法を全固体二次電池の金属析出解析用として手法を確立する。キャリアーイオンとしては同様に銀イオンを用いる。これは、X線による吸収コントラストが強いだけでなく、ガラスから酸化物までの豊富なバリエーションにより、粒界の有無による影響、歪み、空隙の寄与をパラメータとして整理しやすいためである。
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