蓄電池等の更なる性能向上のため溶液/電極界面の原子スケール解析が強く望まれているが、液体の存在によって実験手法が著しく限られている。現在、界面をその場で測定するin situ手法の開発が進んでいる一方で、我々は界面に形成される厚さ1 nmの電気二重層を保持したまま電極を液体から引上げて超高真空中に導入する技術の開発に成功している。本研究では、化学種識別が可能な光電子分光と真の原子スケール解析が可能な走査トンネル顕微鏡を用いて電気二重層のスナップショット測定(ex situ測定)を行い、in situ測定では取得できない電極上のイオン・溶媒・反応中間体分布を解析し、従来の理想化された電気二重層モデルでは捉えられない現実電極系の新しい物理化学を創成する。 我々は、レドックス活性種が溶液中で感じる静電ポテンシャルを真空中においても保持できることを初年度に見出しており、昨年度はその詳細な解析と理論的考察を行った。今年度は、これまでのモデル電極を用いて得られた知見を基に、リチウムイオン電池の複雑な電気二重層界面の研究を展開し、光電子分光と走査トンネル顕微鏡を駆使した複合解析の有用性を示すことに成功した。 また、引上げ電極上に単原子層レベルで吸着した電解質イオンの原子分解能観察にも成功し、これがin situ計測の結果と全く遜色ないものであることを初めて実証することに成功した。この結果は、スナップショット測定が一般性を有することを示しており、今後の更なる発展が期待される。
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