研究課題
生体内のレドックス制御において重要な役割を果たしているセレノシステイン由来活性中間体は、極めて不安定であるためモデル研究すら困難であった。本研究では、反応中間体の高活性と安定性を両立できる新規なペプチドモデル系の創製を目指し、巨大分子キャビティをペプチドのCradleとして活用することで、ペプチド由来活性中間体そのものを安定化できるCradledペプチドモデルの開発を目的としている。本年度、重要な抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)触媒サイクルの機構に関するモデル研究を行った。GPx触媒サイクルについては、最近、セレノシステインに隣接するアミノ酸残基が関与した活性調節機構が提起されたが、鍵中間体であるセレノシステイン由来セレネン酸(SecSeOH)は捕捉すらされておらず、作用機序の検証が困難な状況であった。そこで、提唱反応機構を検証するためにGPx活性部位モデルペプチドとしてSec-Gly-Glyのトリペプチドを内包させたCradledペプチドモデルの構築について検討した。Sec上の保護基としてベンズヒドリル基を用い、合成中間体としてヨウ化セレネニルを経由するという独自に開発した手法により、Cradled Sec-Gly-Glyモデルのセレノール(SecSeH)を合成した。このトリペプチド由来SecSeHを低温下で過酸化水素により酸化することで、対応するSecSeOHをほぼ定量的に発生させ、77Se NMRで観測することに成功した。また、SecSeOHとシステインチオールとの反応によるセレネニルスルフィドへの変換、さらにSecSeHへの還元過程の実証に成功した。
2: おおむね順調に進展している
GPx触媒機構として提唱されている反応過程を検証するためには、鍵中間体であるSecSeOHを安定化可能であり、かつ近傍のアミノ酸残基の関与を解明できる、従来にないモデル系の構築が必要であった。今回、独自の合成手法を確立することで、巨大分子キャビティ内部にSec-Gly-Glyトリペプチドを内包したCradledペプチドモデルを構築し、SecSeOHの定量的生成を達成しており、順調な進捗状況と言える。
前年度に得られた知見に基づき、最近新たに提唱されたGPxの失活抑制機構、すなわちSecSeOHからのバイパス過程について化学的検証を行う。GPxのアイソザイムに対応したトリペプチドモデルへの展開を図り、近傍のアミノ酸残基がSecSeOHの分解をどのように抑制しているかについて、実験的に解明する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Phosphorus, Sulfur Silicon and the Related Elements
巻: 194 ページ: 771-773
10.1080/10426507.2019.1603726
巻: 194 ページ: 618-623
10.1080/10426507.2019.1602618