研究課題
本年度は、ベンゼン環がパラ位で環状に連結した分子「シクロパラフェニレン」にトポロジカル結合を適用した「シクロパラフェニレンカテナン」「シクロパラフェニレントレフォイルノット」の合成と物性測定を行った。カテナンや分子ノットといったトポロジカル構造は分子マシンのユニットとして期待される一方で、合成には配位性・極性の置換基が必須であった。今回我々は、ケイ素を用いた新たな合成戦略によって、パラ位でつながったベンゼン環のみからなるカテナンとトレフォイルノットの合成・構造決定・性質解明に成功した。これらの分子を単離したことで、カテナン構造を介した励起エネルギーの速やかな移動、左結び・右結びに由来するトポロジカルキラリティ、トーラス表面を這うようなノットの動的挙動といった興味深い性質を明らかにした。トレフォイルノットは最小のトーラスノットとしてトポロジーの観点からつながりの深い構造であり、今回合成したオールベンゼントレフォイルノットはカーボンナノトーラスの部分構造となることから、本研究は複雑なトポロジーをもつナノカーボンの精密合成に道を拓く成果である。さらに、合成難易度の高い「9シクロパラフェニレンカテナンの合成」を行った。大きなひずみエネルギーを解消する合成戦略によって目的とする9シクロパラフェニレンカテナンを合成・単離・構造決定することに成功し、トポロジカルπ共役分子の合成可能性をさらに拡大させることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度に発表した「シクロパラフェニレンカテナンおよびノットの合成」という論文はScience誌に掲載され、国内外から非常に高い評価を受けている。また、これの続報として、より難易度が高い「小さなシクロパラフェニレンからなるカテナンの合成」をも達成し、OrganicLetters誌に報告した。シクロパラフェニレンカテナンについて、予想しなかった新たな光物性を明らかにすることができた。カテナン構造によってつながれた2つのサイズの異なるシクロパラフェニレンは異なる光物性をもっており、それがカテナン構造によってどのように振る舞うかは全く未知であった。詳細な検討により、「光吸収はバラバラの分子のように振る舞い、蛍光発光は小さい方のリングが主体となって行う」という、カテナン構造ならではの物性を見出した。これは当初の計画以上の進展であり、最終目的である「トポロジカルπ共役分子の合成と性質解明を通じた新たな化学の開拓と確立」に大きく近づくことができた。
トポロジカルπ共役分子について、カテナンおよびノットの合成に成功し、新たな知見を得ることができた。同様に、異なるトポロジカル結合でさるロタキサンに対しても、π共役構造を導入することで新たな機能が発現することが期待できる。また当初の計画にもある通り、ベルト状およびメビウス状のトポロジーの違いによる構造的・電子的性質の差異にも興味をもっており、次年度以降はこれらの研究を中心に推進する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 9件、 招待講演 6件)
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