私は、最終年度に非対称アザヘリセンの積層構造を解明し、金錯体と多量体の合成を行いました。アザヘリセンは外側に異なる電子効果を持つ置換基を導入すると双極子モーメントを持ち、優れた発光を示すことがわかっています。私たちは、導入する置換基に依存した積層構造を示すことを明らかにするために、アザヘリセンを結晶化してX線構造解析を行いました。その結果、電子求引性置換基とTIPS基を導入すると、分子が一次元カラム構造を形成することがわかりました。また、エナンチオマーを単離することで、全ての分子の双極子モーメントが同じ方向を向く自発分極構造を形成することを見出しました。私たちは計算により、その分極率が既知の自発分極の有機結晶と同程度であることを突き止め、ヘリセンによる自発分極結晶としては世界初の例となったことを報告しました。 さらに、金錯体の研究も行いました。私たちは、ヘリセンの螺旋構造の外側と内側に金(I)イオンを配位したアザヘリセン金錯体の合成に成功しました。特に内側にのみ金イオンが配位した錯体の構造をX線構造解析により明らかにし、立体障害により対称性が崩れた構造をとることを明らかにしました。この構造が光化学特性に影響することも見出し、特に蛍光寿命が外側の金錯体に比べて内側の金錯体では1オーダー遅くなっていることがわかりました。私たちは理論計算により吸収スペクトルのシミュレーションを行い、立体障害による配位子とアザヘリセン間の相互作用の違いが光化学特性に影響していることを突き止めました。これらの研究結果は、金属錯体の設計において立体障害が光学的性質に与えることを示す重要な結果といえます。
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