研究実績の概要 |
本研究では反芳香族性分子が有する(1)常磁性、(2)非線形光学特性、(3)伝導特性、(4)3次元芳香族性、(5)Baird芳香族性などの物性研究を展開するために、①5,15-ジオキサポルフィリン(DOP)の合成化学の開拓、②DOPを基盤とした新規分子の合成、③物性研究、④応用研究について行った。 ①の合成化学の開拓については、DOPの合成条件の最適化を行うとともに、オリゴピロール類縁体を用いることで、新規のオキサポルフィリン類縁体の合成についても検討を行った。結果として、DOPを安定した収率で合成することに成功し、続く周辺官能基化に基づく②の新規分子の合成へと展開した。 ③の物性研究に関しては、反応性の高い位置に置換基を導入することで、ラジカルカチオンとジカチオンを安定に単離することに成功し、それらのカチオン種の電子構造を解明することに成功した。ジカチオンでは芳香族性に由来して、ポルフィリンに類似した吸収スペクトルを示すと予想していたが、それに反して、周辺置換基からの電荷移動の影響により、近赤外領域に幅広い吸収帯を示すことを明らかにした。また、STM観察において、立体障害の小さな置換基を持つDOPは、メゾ位の酸素とピロールのβ位の水素との間の水素結合形成とDOP分子間での相互作用により、二次元のシート状の集合体とそれが三次元に積層した構造を取りやすいことを明らかにした。今後はこれを用いて、積層したDOPの電子構造について解明する。 ④の応用研究については期間内に着手できていないが、基礎となる知見は得られていることから、継続して検討を行う予定である。
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