研究課題/領域番号 |
19H02705
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
笹森 貴裕 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70362390)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 典型元素 / 小分子活性化反応 / ケイ素 / 低配位化学種 / シリレン / シリラン |
研究実績の概要 |
有機化学に対する社会からの要請として、水素添加、二酸化炭素・窒素変換に代表される小分子の変換反応開発は重要な課題の一つである。これまでの有用な変換反応の多くが適切な遷移金属触媒・配位子の探索・開発により達成されているが、遷移金属元素の毒性や元素枯渇の問題が重要視されている。本研究課題では、低毒性かつユビキタスな「典型元素」を用いた小分子変換反応の開拓を目指し、これまで遷移金属元素でしか成し得なかった、あるいは遷移金属元素でも成し得ない有用かつ汎用的な資源活用反応を実践することを目的とする。典型元素の特性に応じた適切な置換基導入と分子設計により、最終的には、遷移金属フリー小分子変換反応を達成する「典型元素触媒」の開発へつながる学術基盤を構築することを目指し、典型元素化合物の安定性と反応性を適切に制御することで、小分子変換反応開拓を行うことを目的として研究を開始した。 本年度は、豊富な14族典型元素であるケイ素に着目し、小分子を活性化しうる二価ケイ素化合物(シリレン)の探索を行った。小分子を活性化しうるシリレンは、合成・単離が極めて困難であるため、反応性に関する基礎的な知見を得ることが難しい。そこで、空気中でも保管可能で、温和な条件でシリレンを発生しうる「シリレン等価体」の開発に着手した。その結果、ケイ素ー炭素ー炭素三員環化合物(シリラン)は、温和な条件でシリレンを発生するよいシリレン等価体であることを見出した。特に、ケイ素上の置換基としてフェロセンを導入することで、シリレンを発生する反応障壁が極端に小さくなることを理論化学計算により見出した。実際、フェロセニル基を有するシリランを合成したところ、40度といった温和な条件で対応するシリレンを発生することがわかった。シリレン等価体を用いた小分子活性化反応について検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までは、ケイ素と性質の似ているゲルマニウムの系で研究を進めたが、本年度は豊富な元素であるケイ素の系で小分子活性化反応を検討した。二価化学種が比較的安定に取り扱えるゲルマニウムと比較して、ケイ素二価化学種(シリレン)は、かなり活性が高く、小分子活性化反応には適している化学種であるが、実験研究上取り扱いが非常に困難であり、進展が遅れた。そこで、安定な前駆体から系中でシリレンを発生する「シリレン等価体」を着想し、活性種そのものではなく、等価体を取り扱い反応性を検討する方法を見出した。今後はシリレン等価体による小分子活性化反応の検討を進めることができ、概ね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の知見により、ケイ素ー炭素ー炭素三員環化合物(シリラン)から、反応系中で温和な条件でシリレンが発生することが分かった。そこで、このシリレン等価体を大量に合成し、熱分解により系中で発生したシリレンを活用して、水素、二酸化炭素、オレフィンといった小分子の活性化反応を検討する。とくに、前年度にゲルマニウムの系で見出した、アルキンへの挿入反応など、ケイ素の系での実現性を検討する。同時に、シリレン等価体の反応性を詳細に明確化し、各反応ステップごとにしっかりとした知見の基盤をつくり、さらに高い反応性をもつケイ素化学種の分子設計に関する研究も進める。
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