研究実績の概要 |
本研究課題では、ピンポイントフッ素化した多環式芳香族化合物 (F-PAH) の自在合成を指向し、(1) 含フッ素アルケンの環化法の完成、(2) 各種環化の組合せ法の確立、(3) F-PAH新材料の開発 を大きな柱として、検討を行なっている。 これまでの標的分子は、ベンゼン環のみからなる多環式芳香族化合物であった。そこで令和2年度は標的となる化合物を拡大し、ピンポイントフッ素化したヘテロ環化合物へと展開する可能性を探った。 検討を行った結果、銅(I)触媒によるピンポイントフッ素化トリアゾールの合成法を開発した。具体的には、1,4-ジオキサン溶媒中、触媒量の塩化銅(I)と1,10-フェナントロリン (1:1) 存在下、2,2-ジフルオロビニル亜鉛(II)クロリドに種々のアジドを作用させた。ジフルオロビニル亜鉛(II)クロリドとアジドの[2 + 3]付加環化反応が進行し、1位に置換基を有する4-フルオロトリアゾールを高収率で与えた。なお、2,2-ジフルオロビニル亜鉛(II)クロリドは、市販されている1,1-ジフルオロエチレンから、容易に調製が可能である。 フッ素化トリアゾールには、医農薬としての用途も期待される。また本反応では、2,2-ジフルオロビニル亜鉛(II)クロリドがフルオロアセチレン等価体として作用している。フルオロアセチレンは不安定な化学種であり、単離して物質合成に利用することは困難であったが、本研究により、その等価体を開発したことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、2,2-ジフルオロビニル亜鉛(II)を用いるピンポイントフッ素化トリアゾールの合成法を開発した。この成果は、ピンポイントフッ素化された多環式ヘテロ環化合物合成に向けて更に展開する基盤となる重要な知見である。またその過程で、2,2-ジフルオロビニル亜鉛(II)クロリドがフルオロアセチレンの等価体となることも明らかにした。フルオロアセチレンは多環式骨格を構築する上で魅力的なビルディングブロックであり、今後の課題達成において重要な役割を果たす。以上のことから、本研究課題は順調に進展していると言える。
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