研究課題/領域番号 |
19H02717
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岡野 健太郎 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (30451529)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 短寿命炭素アニオン / ハロゲンダンス / マイクロフロー / 天然物合成 / in situトランスメタル化 / ヘテロ芳香族化合物 |
研究実績の概要 |
2021年度は、独自に開発したピロールのハロゲンダンスを基盤として、多置換ピロールの合成法を確立した。特に、ピロール窒素原子上の置換基効果を調べたところ、電子求引基として、スルホニル系置換基が円滑にハロゲンダンスを進行させることがわかった。また、ジブロモピロールの選択的官能基化のための触媒移動型二重カップリング反応についても検討した。その結果、分子内C-Hアリール化に引き続き、分子間鈴木-宮浦カップリングが進行し、ラメラリンの短段階合成を実現した。複数のコントロール実験により、本二重アリール化反応が触媒移動型機構で進行していることがわかった。さらに、得られた知見を三重アリール化反応に展開した。化学収率に改善点は残るものの、ラメラリンの合成を5工程で達成した。また、テロメラーゼ阻害活性を示すディクティオデンドリン類に含まれるピロールとカルバゾールが縮環した構造にも適用可能な方法論の開発に取り組んだ。ハロゲンダンス前の短寿命有機金属種としてグリニャール反応剤を利用する手法を開発した。 ハロゲンダンスにおいて、反応系中で発生する短寿命炭素アニオンを、反応性を精密に制御した金属錯体によりin situトランスメタル化する手法の一般性を検討した。前年度までに合成した新規金属ジアミン錯体を用いて、ハロゲンダンスにおいて存在する複数の短寿命炭素アニオンの選択的捕捉を実現した。特に、ハロゲンダンスの前後でバッチ法では捕捉できなかった不安定炭素アニオンの合成的な利用についても検討した。その結果、チエノアセン類の縮環構造を制御した合成に成功した。ヘテロ環構築のためのシクロアレン前駆体やシクロアルキン前駆体の信頼性の高い実用的合成法も確立した。さらに、多環縮環したヘテロ芳香族化合物のハロゲンダンスやin situトランスメタル化を鍵として、置換基を自在に導入できる手法を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も、当初予定していた目標をほぼ達成できた。ピロールへの置換基導入法としては、ハロゲンダンスを起こさない有機金属種として、有機マグネシウムが有用であることがわかった。この知見を利用して、ラメラリン類の第三世代合成を達成した。さらに、多置換ピロールの一般的合成として、窒素原子上の置換基効果に関する知見も得ており、進捗状況に問題はない。 ハロゲンダンスにおいて発生する複数の短寿命炭素アニオンの選択的捕捉については、アゾールなどのさまざまな5員環ヘテロ芳香族化合物に加えて、ピリジンなどの6員環ヘテロ芳香族化合物についても予備的な検討を開始している。確立した手法の合成的応用として、チエノアセン類の縮環構造を制御した合成に成功している。また、ヘテロ環化合物を合成するためのシクロアレン前駆体やシクロアルキン前駆体の信頼性の高い実用的合成法も確立し、Organic Syntheses誌に掲載された。 6員環ヘテロ芳香族化合物として、ピリジンのハロゲンダンスを検討した。LDAのみを用いた場合はハロゲンダンスがほぼ進行しなかったが、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を触媒量添加すると、円滑にハロゲンダンスが進行することがわかった。現在、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体がどのような役割を果たしているかについて詳細に検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、研究計画調書にしたがって、研究を推進する。従来は、LDAのみを作用させて進行するハロゲンダンスに限られていた利用例を、不安定な短寿命炭素アニオンの捕捉や、触媒的にハロゲンダンスを進行させる手法など、独自に開発した方法をもとに有用な合成的方法として、基質一般性を大幅に向上させる。 合成的有用性を示すための天然物合成としては、カルバゾマイシン類のグラムスケール合成やディクティオデンドリン類の網羅的合成を予定している。 ハロゲンダンスにおいて発生する複数の短寿命炭素アニオンの選択的捕捉については、有機トランジスタなどの機能性材料の合成にも取り組む。さらに、これまでの検討で良い結果が得られていない化合物群についても、再検討を実施する。脱プロトンにより発生する有機金属種が不安定であったり、逆に安定であるために従来ハロゲンダンスが困難であった6員環化合物にも取り組む。 上記の方法によって得られる、構造異性体の関係にあるブロモ化された芳香族化合物の変換反応も検討する。そのための手法として、in situトランスメタル化により得られる芳香族ヨウ素化物を基質としてハロゲン-リチウム交換反応を経る方法を主に用い、必要に応じてマイクロフローリアクターも利用しながら、望みの位置に官能基を直接導入するための手法へ展開する。
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