前年度までに開発したピロールのハロゲンダンスについて、特に有効であったピロール窒素上の置換基について、反応機構的な観点からその有用性を検証した。構造異性体の関係にある複数の有機リチウム種の間に平衡が存在するかどうかを調べ、これらの結果を基盤として多置換ピロールの合成法をさらに発展させた。また、ラメラリン類の全合成で得られた知見を応用して、多置換ピロール合成法の有用性を示し、ジブロモピロールの選択的官能基化のためのハロゲンダンスの抑制について、導入可能な置換基や反応条件を調べた。さらに、ピロールにカルバゾールが縮環した骨格の新規構築法の開発に取り組み、ディクティオデンドリンBの形式合成を達成した。 ハロゲンダンスにおいて、反応系中で発生する短寿命炭素アニオンを、「精密に反応性を制御」した金属塩によりin situトランスメタル化する手法をさらに発展させた。具体的には、ジアミンを構造展開して、LDAと金属錯体とのトランスメタル化を防ぎながら、目的の短寿命炭素アニオンを捕捉可能な金属錯体を創出した。有用化合物への合成展開として、有機トランジスタとして用いられるチエノアセンの縮環様式を制御して、幅広い構造異性体を供給する方法を確立した。また、三フッ化ホウ素ジエチルエーテルを作用させて生じたトリフルオロボラートがハロゲンダンスを触媒することも明らかにした。 また、従来は基質依存的であったハロゲンダンスの位置選択性についても、添加剤による選択性制御を検討した。具体的には、ルイス酸やルイス塩基を駆使して、基質と塩基との会合状態を制御し、位置選択的な脱プロトン化を経て、基質の構造によらない位置選択性スイッチングを達成した。さらに、in situトランスメタル化を利用して、同一の基質から構造異性体の関係にある四種類の有機金属種を発生させた。
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