研究実績の概要 |
2019年は5~7族元素の内、6族のクロムと7族のレニウムを用い、以下の三つの変換反応を論文として発表した。 適切なジアミン配位子存在下、1,1-ジヨードメチルスズに塩化クロム(II)を作用させることで、一及び二置換オレフィンから、対応するスタニルシクロプロパン誘導体が収率良く得られることを見出した。いずれの基質との反応からも、オレフィンの置換基とスタニル基は立体障害を避け、トランスに位置した生成物のみが選択的に得られた。スタニル基(Sn)を、シリル基(Si)やゲルミル基(Ge)等の他の14族元素に変えたgem-ジクロムメタンと反応性を比較した結果、Sn>Si>Geの順番であることが分かった。導入したスタニル基は、立体配置を維持したまま、Stilleカップリングやスズ-リチウム交換により、他の官能基へと変換することができた。 フェノールの内部アルキンへの付加反応がレニウム触媒により促進され、位置選択的にモノアルケニル化体が生成した後、ベンゾピラン誘導体へとさらに変換されることを見出した。フェノールの内部アルキンへの付加による触媒的な分子間アルケニル化反応は過去に報告がなく、初めての例であった。ベンゾピラン誘導体の形成は、フェノールとアルキン二分子による[3+2+1]環化付加反応と見なすことができ、カルボメタル化の形式が反応中に変化し、アルキンが二炭素ユニットと一炭素ユニットの両方として機能する珍しい反応であった。これらの新規反応は、フェノール性ヒドロキシ基が配向基として機能し、促進されていたと考えられる。レニウム活性種を単結晶X線解析により構造決定するとともに、その知見からレニウム触媒の活性を向上させることもできた。 レニウム触媒による官能基化ヨードアルキンの1,2-ヨード及び1,5-ヒドリド転位を経る2-ヨードインデン誘導体の合成法も見出したが、文字数の都合上、詳細は割愛する。
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