研究課題/領域番号 |
19H02719
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村井 征史 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (40647070)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クロム / gem-二クロムアルカン / アルキン / エンイン |
研究実績の概要 |
gem-二クロムアルカンから発生するアルキリデン種等価体を1,n-エンインに作用させると、付加に続く環化反応により、シクロペンテン誘導体が得られることを見出した。反応はクロムアルキリデン錯体とアルキンから形成されるメタラサイクルが、メタセシスにより新たなアルケニルクロムカルベン錯体へと変換された後、分子内のアルケン部位に捕捉されることで進行したと考えられる。反応にはブロモ基やアルコキシカルボニル基、ベンジル基を有するエンインや、スルホンアミドも適用できた。また、分子内に内部アルキン部位を含むエンジインに対しては、末端アルキン>内部アルキン>オレフィンの順に反応が選択的に進行し、反応性の違いを利用することで、複雑な骨格を有する化合物の合成にも応用できることが分かった。gem-二クロムアルカンを用いた変換法は、これまでアルケンやアルデヒドといった二重結合との反応に限定されていたが、本研究により三重結合との反応性を明らかにすることができた。 また、発生したアルケニルクロムカルベン中間体はアルケニル基だけでなく、極性を有する炭素-酸素二重結合であるケトカルボニル基でも捕捉できることを見出した。このことから、発生するアルキリデン種等価体は、求核的なSchrock型の反応性を有することが示唆された。ジメトキシエタンによる配位で安定化させることで、活性種であるgem-二クロムシリルメタンの単結晶X線構造解析をすることにも成功した。この反応では、クロムアルキリデン種がカルボニル化合物を形式的に脱酸素することで反応が進行する。そのため、脱酸素剤と還元剤を添加し、クロム種を活性な二価の状態に戻すことができれば、クロム塩を触媒化できるはずである。この仮説の元、種々の還元剤や脱酸素剤を加えて反応を検討したが、残念ながら収率良く目的物を得ることはできなかった。以上の成果をまとめ、論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のため、研究を効率よく進行させることはできなかったが、それでもエンインやアルキニルケトンの環化反応の詳細を検討し、論文として発表することができた。これによりgem-二クロムアルカンの新しい反応性を明らかにできたことから、研究はおおむね順調に進行したと言える。他にもクロム塩の触媒化や、gem-ジハロアルカン・アルキン・ケトンのワンポット三成分連結反応にも取り組んだが、これらに関しては、現段階では十分な成果が得られておらず、2021年度に引き続き検討したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、gem-二クロムアルカンから発生するアルキリデン種等価体を1,n-エンインに作用させると、付加に続く環化反応により、シクロペンテン誘導体が得られることを報告している。この反応の詳細を検討する中で、適切なジアミン配位子を添加することで付加の位置選択性が変化し、生成物をシクロヘキセン誘導体に収束できることを見出した。選択性が逆転した要因は、クロム中心に配位したジアミンの立体障害に由来していると考えられる。この知見の一般性を調査し、基質適用範囲や反応機構に関する知見を得て論文としてまとめることが、本年の第一目的である。また、6族のクロムだけでなく、5~7族の様々な金属錯体を用いてこれらの検討を行い、予想外の反応性の発現を狙う。さらに前年に達成できなかったクロム塩の触媒化や、gem-ジハロアルカン・アルキン・ケトンのワンポット三成分連結反応にも取り組む。他にも、アルケニル基やケトカルボニル基以外の求電子剤でアルケニルクロムカルベン中間体を捕捉することで、新形式の環化反応を開発したい。
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