研究課題/領域番号 |
19H02722
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
柳 日馨 大阪府立大学, 研究推進機構, 特認教授 (80210821)
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研究分担者 |
福山 高英 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60332962)
隅野 修平 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究員 (60783272)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | C-H 官能基化 / ラジカル反応 / 光触媒 / デカタングステート / 水素引き抜き反応 |
研究実績の概要 |
C(sp3)-H 結合の位置選択的な官能基化は現代有機化学の重要な研究課題の一つであるが、本研究では光励起させた触媒種による C(sp3)-H 結合のラジカル的水素引き抜きを経る官能基化に取り組んでいる。本研究では触媒としてデカタングステートイオンを用いている、このデカタングステートイオンは巨大な分子であり、光励起によってオキシラジカルとして機能し水素を可逆的に引き抜くことができる。我々は水素引き抜きの遷移状態における立体効果とともに極性効果による位置選択性の発現が期待できるという仮説を立て研究を行った。 その結果、本年度には脂肪族アルキル鎖を有するケトン、エステル、アミド、ニトリル、複素芳香環を有する化合物取り上げ、多くの化合物で位置選択的 C(sp3)-H 官能基化を達成した。また電子吸引基であるフッ素原子を有する各種の炭化水素化合物を調製し、水素引き抜き挙動に焦点を当てた研究を行った。その結果、フッ素をベンゼン環に複数有するアルキルベンゼンについてアルキル側鎖での位置選択的な C(sp3)-H 官能基化反応を検討し、通常反応性が高いとされるベンジル位の C-H 官能基化を回避できる反応系を見出した。さらにペルフルオロアルキル基に連続したアルカンの C(sp3)-H 官能基化ではアルファ位での C(sp3)-H 官能基化を回避した反応系を見出した。これらは水素引き抜き反応後に形成される遷移状態におけるラジカル極性効果で説明することができ、我々のコンセプトが正しいものであることを示していると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はデカタングステートイオンを光触媒とする脂肪族アルキル鎖を有するケトン、エステル、アミド、ニトリル、複素芳香環などのC(sp3)-H 部の位置選択的官能基化、さらにフッ素をベンゼン環に複数有するアルキルベンゼンについてアルキル側鎖、およびペルフルオロアルキル基に連続したアルカンの C(sp3)-H 官能基化について良好な研究の進展と成果を得た。これらの反応はベンジル位やパーフルオロアルキルのアルファ位ではないところを官能基化する手法として新規であるため、これまで合成が困難であった化合物へ適応することが出来る有用な方法であると言える。また、この位置選択性の現出は、我々の想定する反応機構と一致するため、来年度以降の研究計画もおおむね申請した内容に準じて行うことが出来る。そのためここまでの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでデカタングステートイオンを光触媒とする脂肪族アルキル鎖を有するケトン、エステル、アミド、ニトリル、複素芳香環などのC(sp3)-H 部の位置選択的官能基化、さらにフッ素をベンゼン環に複数有するアルキルベンゼンについてアルキル側鎖、およびペルフルオロアルキル基に連続したアルカンの C(sp3)-H 官能基化について良好な研究の進展と成果を得た。次年度は他の酸素中心ラジカルとして硫酸イオンラジカルにおいて C-H 官能基化を皮革検討していく。この反応をこれまでの研究で見出された位置選択的 C(sp3)-H 官能基化反応をアルケニルスルフォンやアリルスルフォンとの共存系で実施し C-H アルケニル化、アリル化へと展開していく。また応用としてより複雑な炭素骨格、高度な官能基化を通じて合成科学的な応用例を見出す計画である。また、様々な天然および非天然の有機化合物が極性官能基を有することでラジカル種による水素引き抜き反応の遷移状態が摂動を与えられ、選択性の発現につながることから、得られた個々の例について、水素引き抜き段階の詳細な反応機構の解明に取り組む。水素引き抜き反応による炭素ラジカル生成へと続くカスケード型ラジカル反応との組み合わせも検討し、触媒的にして合成科学的に有用な C(sp3)-H 結合の位置選択的な官能基化法の開発を果たす。
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