研究課題/領域番号 |
19H02723
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
草間 博之 学習院大学, 理学部, 教授 (30242100)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光反応 / カルベン / 金属錯体 |
研究実績の概要 |
炭素の二価化学種であるカルベンは合成化学において大変有用な反応活性種であり、これまでにも様々なカルベン生成手法が開発されてきた。しかしカルベン種を非常に簡便に発生し、かつ生じたカルベン種の反応性を自在に制御することは容易でない。本研究では、アシルシランの光異性化によるシロキシカルベン生成を活用する独創的分子変換手法の開発を主題とし、1)広範なアシルシラン類からシロキシカルベンを効率的に生成する手法の確立、ならびに、シロキシカルベン種の反応制御法の開拓に向けて、2)遷移金属種によるカルベン捕捉剤の活性化に基づく反応制御、3)遷移金属種とのカルベン錯体形成に基づく反応制御、について研究を展開している。 前年度の検討において、1)の課題に関する優れた方法論の確立に成功したため、本年度は課題2)、3)に関する検討に注力した。その結果、2)の課題に関しては以下の結果を得た。シロキシカルベンとアリルアルコール誘導体とは直接カップリング反応を起こすことはないが、アリルアルコール誘導体を適切なパラジウム触媒により活性化すると、効率良く分子間カップリング反応を起こすことを見出した。またアリルアルコール誘導体の脱離基、反応条件を工夫することで、カップリング反応の位置選択性が逆転する現象も見出すことに成功した。本手法は、光によるアシルシランの活性化と金属触媒によるアリルアルコール誘導体の活性化が両立してはじめて進行する反応であり、独創性の高い反応と言える。 また、課題3)については、アシルシランの光異性化で発生する短寿命化学種であるシロキシカルベンが、適切な銅塩と直接反応して、Fischer型銅カルベン錯体を生じることを明らかにすることができた。これは、合成素子として有用なFischer型カルベン錯体を発生させる新規かつ簡便な手法であり、学術的意義のある成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要欄に記したように、本年度の中心的な研究課題の一つである、2)遷移金属種によるカルベン捕捉剤の活性化に基づく反応制御、について、目的に沿った研究成果を着実に挙げることができており、これらの知見を元に更なる研究展開が図れると考えている。また、もう一つの課題、3)遷移金属種とのカルベン錯体形成に基づく反応制御、については、顕著な成果までには至っていないものの、目的とするFischer型カルベン錯体の発生が可能であることを既に明らかにしており、この手法を活用して、様々な触媒的分子変換反応が開発可能と期待される。以上により、本研究は概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
実績概要に記した3つの課題のうち、1)については満足する手法の確立ができており、2)については新規反応の開発に成功しており、次なる課題はその発展研究となる。また、3)の課題については、目的達成のための礎となる部分の方法論の開拓に成功している。 これを受けて次年度以降は、課題2,3)を強力に推進する計画であり、本年度得られた知見を最大限に活かし、独創的な触媒的分子変換の実現に向けた研究を強力に推進する計画である。
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