研究課題
本年度は、剛直性の異なる二種類の有機二座配位子とPd(II)イオンを利用した自己集合について、エネルギーランドスケープの変調による速度論コントロールに基づく、自己集合体の形成を行った。柔軟な二座配位子については、先行研究において、100 nmサイズのシート構造を一過的に形成し、これが分解することで、熱力学的に最安定なPd(II)二核かご形錯体が生成することが明らかになっている。今回、自己集合における対アニオンをBF4-からOTf-を変えたところ、マイクロメートルのシート構造が速度論トラップとして生成し、かご形自己集合体の収率が劇的に低下することが明らかになった。この結果から、かご形錯体の形成には、対アニオンが大きく影響しており、これはかご形錯体内へ対アニオンを取り込むことによるテンプレート効果であることが明らかになった。事実、速度論的に生成するマイクロメートルのシート構造へテンプレートイオンを加えると、速やかに熱力学的に最安定なかご形錯体へ変換することが明らかになった。また、自己集合の開始時からテンプレートイオンが存在する場合、シート構造を形成することなく、かご形構造が生成することがわかり、スケールが大きく異なる二種類の構造体を生成する分技点が小さな鎖状中間体における環化反応であり、かご形錯体の形成は速度論的テンプレート効果によることも明らかになった。一方、剛直な有機二座配位子については、通常の自己集合の条件では、想定されるかご形錯体の収率が低く、さらに加熱を続けると分解が進行することから、このかご形錯体が熱力学的に最安定な構造ではないことがわかった。これに基づき、Pd(II)イオン源の脱離配位子と溶媒を変え、さらにテンプレートイオンを加えると、準安定なかご形錯体を定量的に生成できることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
上記の通り、2019年度はかご形錯体について、速度論コントロールによる分子自己集合の可能性を実証することができた。柔軟な二座配位子については、これまで生成が確認されたことがなかった、マイクロメートルサイズにシート構造が準安定種として生成していることが判明し、自己集合過程の解明によって新しい物質を発見できることが明らかになった。また、剛直な有機二座配位子による自己集合については、準安定なかご形錯体を定量的に生成することに成功し、これまで信じられてきた「自己集合体は熱力学的に安定なので、定量的に生成する」という考え方によらず、速度論によっても分子自己集合体を効率的に生成することが可能であることを示すことができた。
2019年度は、かご形錯体という自己集合について、エネルギーランドスケープを変調することで速度論支配下によって、効率的に分子自己集合体を生成できることを示すことができた。今後は、自己自己集合性錯体全般、もしくは分子自己集合にまたがる共通の原理の探索を目指し、より広く自己集合性錯体について構成要素に含まれない要素(脱離配位子や溶媒など)がエネルギーランドスケープに及ぼす効果を調べていく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 1件)
Communications Chemistry
巻: 2 ページ: 128~128
10.1038/s42004-019-0232-2
Journal of the American Chemical Society
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