研究課題/領域番号 |
19H02733
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大木 靖弘 京都大学, 化学研究所, 教授 (10324394)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鉄 / モリブデン / 硫黄 / ニトロゲナーゼ / 窒素固定 |
研究実績の概要 |
令和2年度の本研究では、主に以下の項目を達成した。 昨年度の本研究で合成に成功した、(C5Me4SiR3)Mo部位を持つキュバン型[Mo3S4Fe]クラスターを、N2雰囲気下で試薬還元した。その結果、末端Fe-N2部位を持つ新たなMo-Fe-Sクラスターが生成した。これらの合成再現性を確認するとともに、幾つかの検討を経て末端Fe-N2クラスターの結晶化にも成功し、令和元年度に見出した二量体Fe-N=N-Fe型クラスターとともに、X線結晶構造解析により分子構造を確認した。一連のFe-N=N-Fe, Fe-N2クラスターは、NMRスペクトルから反磁性であることも確認し、さらに15N同位体標識したサンプルを用意して15N NMRおよびIR測定により、N2が配位していることを証明した。また、硫黄配位子が多く配位したFeは比較的電子豊富な環境にあることが、IRスペクトルで観測されたN-N伸縮振動波数から示唆された。分子構造とメスバウアー分光測定結果とN-N伸縮振動を理論計算により再現し、金属の電子状態の評価も検討した。その結果、基底状態がS=0であり、NMR測定の結果と矛盾しないことが確認できた。今後の本研究では引き続き、N2配位クラスターの反応性検討や触媒的なN2還元反応への利用を進めつつ、論文としてまとめ、発表する予定である。Mo-Fe-SクラスターのFeによるN2活性化は、過去半世紀近く実現できていなかった重要な課題の一つであり、酵素活性中心となる金属-硫黄クラスターの構造と窒素固定化機能の関係を解明する大きな一歩となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
世界で初めて、Mo-Fe-SクラスターのFeを用いてN2を活性化できることを実証した。この結果は、「FeMo-cofactorのFeを反応サイトとしてN2が還元される」と提唱されている近年の生化学研究の結果とも合致し、条件さえ適切に整えれば金属-硫黄クラスターでN2が活性化できることを証明し、酵素の機能と構造の関係を解明する第一歩となる。酵素ニトロゲナーゼの研究が開始されてから半世紀近くの間に、多種多様なMo-Fe-Sクラスターが合成されてきたものの、全てN2活性化は不可能であった。また、酵素活性中心FeMo-cofactorも、タンパクから抽出すると窒素還元能を喪失することが知られている。半世紀近く謎のまま残されていた課題に対して一歩を踏み出したことの意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
Mo-Fe-SクラスターのFe上に捕捉したN2が変換されることを証明する。具体的には、Fe-N2部位を持つクラスターと求電子剤となるプロトンあるいはケイ素試薬との反応により、Fe-N2部位からFe-N=N-R構造へ変換し、生成物の同定を通して新たなN-R結合が形成することを確認する。さらに、Mo-Fe-Sクラスターを触媒前駆体として、触媒的なN2の還元反応を検討する。反応としては2通り、(1)アンモニア合成(常圧N2下、プロトンおよび還元剤を室温もしくは低温で作用させる反応)、および(2)シリルアミン合成(常圧N2下、クロロシランおよび還元剤を室温で作用させる反応)を予定する。
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