• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2020 年度 実績報告書

光駆動型ハイドライドの精密設計

研究課題

研究課題/領域番号 19H02736
研究機関中央大学

研究代表者

張 浩徹  中央大学, 理工学部, 教授 (60335198)

研究分担者 中田 明伸  中央大学, 理工学部, 助教 (20845531)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワードハイドライド / 水素 / 光駆動 / 励起状態水素脱離 / 金属錯体 / 混合原子価 / プロトン共役電子移動 / フェニレンジアミン
研究実績の概要

本研究では、申請者らが見出した非貴金属とH+及びe-を貯蔵できるπ系ジアミン配位子を含む錯体分子(Metal-binding π-diamine (MπA))を用いた光駆動型水素吸蔵・放出システムの学理を確立し、室温で光により駆動する光駆動型ハイドライドの精密設計を展開する。具体的には、申請者らが見出した非貴金属とH+及びe-を貯蔵できるπ系ジアミン配位子を含むMπAを用いた光駆動型水素吸蔵・放出システムの学理を確立し、室温で光により駆動する光駆動型錯体ハイドライドの精密設計を展開することを目的に研究を展開した。本期間には、新規EC及び水素発生を含む有用反応を見いだすべく芳香族アルコール/チオール/アミン誘導体に対し系統的に置換基種や導入位置を変調した結果、カテコール等のアルコールにおいてはESHD後に水素発生を伴いながら多量化が生じる一方、チオール類においては高効率な光ジスルフィド化が進行した。一方興味深いことに、opdaおよびアミノフェノール(apH2)誘導体はCO2下OH基のo-位におけるH光カルボキシル化が進行した。さらに、p-apH2では1%CO2下における光カルボキシル化の進行(合成収率29%、量子収率0.77%)も明らかとなった。また、o-apH2の位置異性体であるp-apH2に対しても、o-apH2と同様にOH 基のo-位において光カルボキシル化が進行する一方、m-apH2 は光反応性を示さなかった。本研究ではTDDFT計算により、m-apH2 ではπ-σ*励起状態を形成するためのエネルギー障壁が大きく、効率よくESHD が進行できないことも明らかにした。以上の結果により、ESHDを介した本光化学反応はこれまでに用いられてこなかったESHDプロセスを活用した新しい物質変換反応の開拓を可能にすると考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2020年度はMπA及びその類似体を新規ECとして活用すべく、課題1)水素ラジカルの選択的反応場の構築に加え課題2)光脱水素プロセスの解明と制御に焦点をあて実験を計画した。まず、本研究ではMπAの活性部位であるopdaの励起状態水素脱離 (ESHD) によりNH2基のN-H結合が活性化され、水素およびアミニルラジカルの生成により反応が進行することを明らかにし報告したのに加え、新規EC及び有用反応を見いだすべく芳香族アルコール/チオール/アミン誘導体に対し系統的に置換基種や導入位置を変調し、ESHDと光反応性に与える影響を明らかにした。その結果、カテコール等の芳香族アルコールにおいてはESHD後に多量化が生じる一方、チオール誘導体においては高選択的かつ高効率な光ジスルフィド化が進行することを見いだした。尚、この過程に水素も発生することを確認している。一方興味深いことに、opdaおよびアミノフェノール(apH2)誘導体へのCO2下紫外光照射では置換基のo-位隣接位において芳香族C(sp2)-H光カルボキシル化が進行した。さらに、p-apH2では1%CO2下における光カルボキシル化の進行(合成収率29%、量子収率0.77%)も明らかとなった。また、o-apH2の位置異性体であるp-apH2に対しても、o-apH2と同様にOH 基のo-位において光カルボキシル化が進行する一方、m-apH2 は光反応性を示さなかった。本研究ではTDDFT計算により、m-apH2 ではπ-σ*励起状態を形成するためのエネルギー障壁が大きく、効率よくESHD が進行できないことも明らかにした。以上の結果により、ESHDを介した本光化学反応はこれまでに用いられてこなかったESHDプロセスを活用した新しい物質変換反応の開拓を可能にすると考えられる。

今後の研究の推進方策

本研究では、申請者らが見出した非貴金属とH+及びe-を貯蔵できるπ系ジアミン配位子を含むMπAを用いた光駆動型水素吸蔵・放出システムの学理を確立し、室温で光により駆動する光駆動型ハイドライドの精密設計を展開する。具体的には、1)本課題の遂行中に見いだしたMπAへの光照射により駆動される水素分子の発生を伴う芳香族化合物の変換反応のうち、低濃度CO2下で生じる芳香族C-H結合の活性化を伴う位置選択的なカルボキシル化の駆動機構を明らかにする。特に光励起状態後のESHD過程の解明に加え、光励起種の寿命測定やCO2と基質の相互作用を定量的に明らかにする。
一方、本研究を遂行する過程に、[M(opda)3]2+系の場合溶液系であることから、溶媒との反応や副反応の抑制に困難を伴うことが示唆された。これらの副反応を抑制し、かつ水素重量密度を向上させる観点からも本系の固体化に取り組む。具体的には、分子内にキレート可能な二つ以上のNH2基を有する芳香族配位子(例:1,2,4,5-benzenetetramine (BTAH4))を架橋配位子とした配位高分子をターゲットし、1,2,3次元高分子骨格を持つ既知及び新規錯体の合成法を確立する。これらの多座ポリアミン系配位子においては最大3分子の水素分子を配位子内に貯蔵でき、且つ高分子化により不溶化することが期待される。本研究では、平面四配位型コアを形成するNi,Pd,Pt系金属並びに、六配位八面体型コアの形成により、3次元構造を構築しうるアルカリ、アルカリ土類、3d金属とポリアミンの複合化を進める。また錯体の薄膜化や電極への修飾により光電気化学的に水素分子の貯蔵放出が可能となる新規材料の構築を目指す。

  • 研究成果

    (17件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (12件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Excited-state Hydrogen Detachment from a Tris-(o-phenylenediamine) Iron(II) Complex in THF at Room Temperature2020

    • 著者名/発表者名
      Akinobu Nakada, Takuji Koike, Takeshi Matsumoto, Ho-Chol Chang
    • 雑誌名

      Chem. Commun.

      巻: 56 ページ: 15414-15417

    • DOI

      10.1039/D0CC06219G

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Functional-Group-Directed Photochemical Reactions of Aromatics Triggered by Excited-state Hydrogen Detachment: Additive-free Oligomerization, Disulfidation, and C(sp2)-H Carboxylation with CO22020

    • 著者名/発表者名
      Kanae Abe, Akinobu Nakada, Takeshi Matsumoto, Daiki Uchijyo, Hirotoshi Mori, Ho-Chol Chang
    • 雑誌名

      J. Org. Chem.

      巻: 86 ページ: 956-969

    • DOI

      10.1021/acs.joc.0c02456

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Facile and selective synthesis of zeolites L and W from a single- source heptanuclear aluminosilicate precursor2020

    • 著者名/発表者名
      Akira Imaizumi, Akinobu Nakada, Takeshi Matsumoto, Ho-Chol Chang
    • 雑誌名

      CrystEngCommun

      巻: 22 ページ: 5862-5870

    • DOI

      10.1039/d0ce00546k

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Molecular insights into the ligand-based six-proton and -electron transfer processes between tris-ortho-phenylenediamines and tris-ortho-benzoquinodiimines Fe(II) complexes2020

    • 著者名/発表者名
      Takeshi Matsumoto, Risa Yamamoto, Masanori Wakizaka, Akinobu Nakada, Ho-Chol Chang
    • 雑誌名

      Chem. Eur. J.

      巻: 26 ページ: 9609-9619

    • DOI

      10.1002/chem.202001873

    • 査読あり
  • [学会発表] 二相溶液系における還元型光触媒反応を指向したフェロセン型電子伝達体の光誘起電子/相間移動特性2021

    • 著者名/発表者名
      板垣 廉・張 浩徹・中田 明伸
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] 分子性Al4P4キュバン型錯体を用いた無機構造体の構築2021

    • 著者名/発表者名
      髙橋 拓未、今泉 暁、中田 明伸、張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] 芳香族ポリアミン配位子を有する配位高分子の合成とその性質2021

    • 著者名/発表者名
      田端 隼人、阿部 叶、中田 明伸、張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] エチレングリコキシ鎖修飾レドックス活性カテコラート白金(II)錯体及びLi塩複合体の合成2021

    • 著者名/発表者名
      時安 哲平、越後 亮哉、今泉 暁、中田 明伸、張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] Spiro-7型Si/Al多核錯体の熱的Si-Ph活性化によるアルミノシリケート構築2021

    • 著者名/発表者名
      今泉 暁・中田 明伸・張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] リジルアンカーを有するRu(II)錯体修飾TiO2光触媒の水素生成及び表面クリック反応に対する置換基効果2021

    • 著者名/発表者名
      栗山 智帆・張 浩徹・中田 明伸
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] プロトン共役電子移動機能の発現を指向した新規アルキル修飾Pt(II)錯体の合成とその性質2020

    • 著者名/発表者名
      牧田 莉佳、中田 明伸、張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] Photochemical Carboxylation of C(sp2)-H bonds in Di-substituted Anilines by CO2 in the Presence of Metal Ions2020

    • 著者名/発表者名
      Kanae ABE, Akinobu NAKADA, Hirotoshi MORI, Ho-Chol CHANG
    • 学会等名
      錯体化学会第70回討論会
  • [学会発表] CO2を用いた芳香族アミン類の光カルボキシル化に対する置換基効果2020

    • 著者名/発表者名
      阿部叶、中田明伸、森寛敏、張浩徹
    • 学会等名
      錯体化学会オンライン研究発表会
  • [学会発表] Si-Ph結合を有する分子性Si/Al多核錯体の熱的活性化によるアルミノシリケート合成2020

    • 著者名/発表者名
      今泉 暁・中田 明伸・張 浩徹
    • 学会等名
      錯体化学会第70回討論会
  • [学会発表] Si/Al多核錯体をモレキュラープリカーサーとして用いたアルミノシリケート合成2020

    • 著者名/発表者名
      今泉 暁・中田 明伸・張 浩徹
    • 学会等名
      錯体化学会オンライン研究発表会
  • [学会発表] 表面クリック反応によるRu(II)錯体修飾半導体光触媒の複合化2020

    • 著者名/発表者名
      栗山 智帆・張 浩徹・中田 明伸
    • 学会等名
      錯体化学会第70回討論会
  • [備考] 中央大学理工学部応用化学科分子機能化学研究室

    • URL

      http://www.chem.chuo-u.ac.jp/~chang/index.html

URL: 

公開日: 2021-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi