本研究では、様々な種類の結合系プラズモニックナノ構造を作製し、位相緩和ダイナミクスの変化がプラズモン増強や光反応・分子検出に与える効果を明らかにすることを目的として研究を行った。最終年度の研究では、ポルフィリンJ会合体励起子とプラズモンとの強結合系において、励起スペクトル測定によりハイブリッド準位が形成されていることを明らかにするとともに、励起スペクトルから作成した分散曲線も強結合に特有な反交差な振る舞いを示すことが明らかになった。また、スペクトルの線幅から見積もった位相緩和時間は、励起子とプラズモンとの強結合に基づいて系統的に変化することを実験的に明らかにすることに成功した。さらに、電磁場解析により励起子とプラズモンとの強結合系においては、ハイブリッド準位の位相緩和ダイナミクスが長寿命化することを明らかにした。重要な点は、発光スペクトルを測定したところハイブリッド準位の波長域でPurcell効果に基づいて発光増強が観測されたことである。同様に、メロシアニン分子とプラズモンとの結合系を構築して電子状態緩和ダイナミクスをサブピコ秒の過渡吸収分光計測により測定したところ、早い成分が数psと高速に減衰する挙動が観測された。発光スペクトルを測定したところ、プラズモンとのカップリングにより発光増強が観測された。これらの結果から、メロシアニンの励起状態がプラズモン増強に基づくPurcell効果により高速に緩和し、メロシアニンからスピロピランへのフォトクロミック反応が抑制されることを実験的に明らかにすることに成功した。以上の結果から、結合系プラズモニック構造を用いると、プラズモンの長寿命化に基づく光電場増強効果によって表面増強ラマン散乱を用いた分子の高感度検出が行えること、そして電子状態ダイナミクスを変調して光反応速度を制御することが可能であることを明らかにした。
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