再生医療の分野においては「細胞の品質管理」の観点より、高速・高選択性・ダメージレスな細胞分離・精製法の開発が望まれる。しかし、現在普及するFluorescence Activated Cell Sorting system (FACS)やMagnetic Cell Sorting System (MACS)では、この3つの要件を同時に満たすことはできなかった。本研究では、ナノ粒子の逆ミセルへの輸送現象を細胞分離の原理として用い、超高速・ダメージレス細胞精製法の開発を目指す。 本年度は、本研究の要となる自然乳化現象(水相から逆ミセルへの自発的な水の輸送)のメカニズムについての追加検討を行った。界面活性剤であるSpan 80をヘキサデカンに溶解し水相に接するとその界面で自然乳化が起こる。しかし、他の脂溶性界面活性剤(例えばBrij O2やビスエチルヘキシルホスフェート)を用いても自然乳化が起こらない。この原因を明らかにするために、カールフィッシャー水分測定を用いた逆ミセル中の水の含有量の計測を行った。その結果、Span 80では逆ミセルの水の含有量が少ないほど、その水の化学ポテンシャルが低くなることが分かった。これは他の界面活性剤では見られなかった傾向であった。また、ケルビン式から予測される水の化学ポテンシャルと逆の傾向であった。京都工芸繊維大学の水口朋子准教授によるSpan 80逆ミセルのMDシミュレーションの結果、逆ミセル中の水の含有量が少ないほど水-水間、および界面活性剤-水間の水素結合が安定化することが分かった。この水素結合の安定化がSpan 80特有の自然乳化を起こすと考えられる。本成果により、自然乳化の新たなメカニズムが明らかになり、また、自然乳化を引き起こすことができる界面活性剤をデザインするうえでの指針が得られたと考える。
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