研究課題/領域番号 |
19H02741
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
渋川 雅美 埼玉大学, 理工学研究科, 名誉教授 (60148088)
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研究分担者 |
半田 友衣子 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (20586599)
齋藤 伸吾 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60343018)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | HPLC / ナノ気泡 / ナノ超臨界流体 / 疎水性ナノ細孔 / VOC / 二酸化炭素 |
研究実績の概要 |
本研究は,多様な表面構造をもつ多孔質材料の細孔内に気体および超臨界流体を固定化し,これらを分離場とするHPLCシステム(それぞれSBMLCおよびSFS-LCと呼ぶ)を構築して,ナノ空間における気体と超臨界流体の分離媒体としての機能を解明するとともに,圧力や温度によって分離選択性を自在に変換できる分離技術を生み出すことを目的としている。本年度は,細孔サイズと気相体積の圧力依存性の関係,および細孔内壁表面の化学構造が超臨界流体の密度と物質分離選択性にどのような影響を与えるのかに着目して研究を行った。 平均細孔径が8 nm,10 nm,および30 nmのオクタデシル基を化学修飾した多孔質シリカまたはジルコニア粒子を充填したカラムについて気相体積の圧力依存性を調べた。その結果,細孔径が小さいほど,より高圧下で気体を細孔内に保持できることが明らかになった。これにより,細孔径が小さい疎水性充填剤を用いることによって,高速かつ分離効率の高いSBMLC分離が達成できることを示した。 オクタデシル基およびフェニルヘキシル基を表面化学修飾したシリカに加え,ポリスチレン樹脂を充填したカラムを用いて,超臨界二酸化炭素の細孔内への固定化を試みた。その結果,いずれの充填剤粒子もその細孔内に超臨界二酸化炭素を安定に保持することがわかった。また,カラム内の超臨界二酸化炭素相の密度を測定したところ,密度は充填剤の表面化学構造によらず,圧力と温度によってのみ決まり,バルクサイズの超臨界二酸化炭素とほぼ等しい値となることが明らかになった。また,種々の有機化合物について,同一のカラムを用いてSBMLCとSFS-LCにより保持挙動を調べたところ,超臨界二酸化炭素相は疎水基相とは独立に物質分離に寄与することが明らかになった。さらに,二酸化炭素を含む移動相を用いることによってピークの対称性が向上することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同一の表面化学構造を持ち,細孔径の異なる粒子を充填したカラムについてSBMLCにより測定した気相体積の圧力依存性は,Washburnの式から予想される結果とよく一致し,細孔径がより小さい充填剤を用いることによってSBMLCによる高速分析が可能であることが明らかになった。細孔内の気相を一定の体積に保つことは高い再現性を獲得するために必要であり,この研究結果はSBMLCを実用化する上で重要な基盤の一つになる。一方,超臨界二酸化炭素は,気体と同様,疎水性の多孔性材料であれば安定に固定化できることを明らかにしたことは,充填剤を選択することによって,多様な分離選択性をもつSFS-LCを構築できることを示すものである。さらに,この研究過程で,移動相に二酸化炭素を1%程度添加するだけで,シリカ及びポリスチレン樹脂充填カラムを用いる逆相HPLCにおいて多くの有機化合物に観測されるテーリングが抑制されるという現象を見出した。 これらの結果は,今後の研究を進める上での基盤となるものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに得られた研究成果に基づいて,SBMLCとSFS-LCを実用分析法として確立することを目的とした研究を展開する。特に,水中の揮発性有機化合物(VOC)の完全回収分析法,および不活性ガスの高速分析法の開発を主たる目的として研究を進める。これらはいずれも,現在ガスクロマトグラフィーを用いて分析されているが,それぞれ分析値の正確さや再現性に問題があることが知られている。これらの問題点をSBMLCとSFS-LCにより克服し,従来法に替わる分析法を開発する計画である。 なお,当初は初年度に質量分析計を購入し,これを検出器として使用する計画であったが,インターフェイスを含めた費用が予算を超過したため,フォトダイオードアレイ検出器および示差屈折率検出器を用いて研究を進める。また,細孔径が6 nmまたは4 nmのシリカ粒子を使用して,これに鎖長の異なるアルキル基やフッ化炭素基を修飾した充填剤を合成し,多様な分離選択性を生み出すことを可能にするシステムを開発することを目指す。
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