研究課題/領域番号 |
19H02742
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
藤浪 眞紀 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (50311436)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 陽電子消滅 / その場分析 / 水素脆化 |
研究実績の概要 |
今年度は,開発したその場陽電子寿命測定装置により,以下の成果を得ることができた。その場計測装置では,電解水素チャージしながら陽電子寿命測定が可能な電解セルを製作した。電解水素チャージしながら純鉄を10%延伸し,水素添加状態で陽電子寿命測定したところ,空孔クラスター成分は検出されず,単空孔レベルの寿命成分のみが検出された。これは水素存在下では空孔-水素複合体が形成されていることを初めて明らかにしたものである。水素がトラップしていることで,空孔拡散が抑制されている。また,水素添加を中断すると空孔クラスター形成が始まったことから,生成欠陥が局所高密度形成していることを示唆している。また,水素添加純ニッケルにおいてはドイツのHZDR研究所において,超高速陽電子寿命測定を行った。その結果,ニッケルでは水素添加のみで単空孔レベルの欠陥が形成し,数時間レベルで水素が脱離するにつれて,空孔クラスター形成が起こることを明らかにした。一方,水素添加純鉄においては,分オーダーでの陽電子寿命測定を実施しても,単空孔レベルの欠陥検出には至らなかった。これは,水素の拡散係数が大きく,分オーダーで水素が脱離してしまうためと考察された。 ステンレス鋼においては,温度可変の陽電子寿命測定を行うことで,延伸温度での欠陥挙動を分析することに成功した。SUS316Lにおける水素脆化温度特性と生成欠陥種の相関を得た。その結果,水素脆化する温度では空孔高密度形成が起こるが,その温度以上では小空孔クラスターの多量形成,その温度以下では空孔クラスター形成抑制が起こることがわかった。 以上,水素脆化する金属材料において,水素脆化支配欠陥を同定するためには,その場陽電子消滅測定が非常に有効であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施はほぼ計画通りに進行しており,その成果発信も順調である。2020年度当初はコロナの緊急事態宣言発令により研究活動の中断を余儀なくされたが,年度後半にはそれを補うべく研究活動を実施することができた。国内での学会発表もオンライン形式であるが行うことができた。一方,ドイツHZDR研究所での共同研究は海外出張規制のため,中断をしている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2021年度はその場陽電子寿命測定装置の活用をさらに進めることで,構造材料の寿命予測にも本装置の可能性の検証実験を進める。また,引き続き水素脆化支配欠陥を調べるために,その場同時計数ドップラー広がり法による欠陥に捕獲された水素の検出実験,fcc鉄であるオーステナイト系ステンレス鋼の水素関与欠陥の検出実験を実施することで,当初予定した全項目の実現に挑戦する。ドイツのHZDR研究所での共同研究に関しては,オンラインでの打ち合わせを随時行うことで,交流が可能になった場合に速やかに対応できるようにする。研究成果発信については,国内外の会議がオンライン開催中心となっているが,積極的に参加するとともに,学術誌での公表を推進する。
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