研究課題/領域番号 |
19H02743
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾張 真則 東京大学, 環境安全研究センター, 教授 (70160950)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 二次イオン質量分析法 / 三次元分析 |
研究実績の概要 |
【スパッタ収率測定】タングステン微小片試料に対しガリウムイオンビームをラスター走査およびshave-off走査を行い、それぞれの条件でのスパッタ収率を測定した。その結果、タングステンに30keVのガリウム収束イオンビームを照射した場合、shave-off条件下でのスパッタ収率はラスター走査の場合の1.3倍であることが明らかとなった。 【二次イオン放出角度分布測定】タングステン微小片試料をshave-off条件でスパッタした時に放出される二次イオンに対し、放出角度分布を求めた。その結果、二次イオン放出角度分布は、shave-off断面の法線方向からイオンビームの進行方向に向けて約30°傾いた方向に最大値を持ち、分布形状は最大方向からの角度に対してコサイン3乗則で近似できる分布であることが明らかとなった。 【二次イオン輸送光学系の設計・試作】二次イオン輸送光学系に求められる機能は、二次イオンを加速し質量分析器の主スリット上にできるだけ多く集めること、shave-off断面の垂直方向のみを数100倍に拡大した像を検出面に結像させることの2点である。試料から放出される二次イオンは水平面から約30°下方に極大を持つ強度分布を持つこと、質量分析器の扇型電界部が垂直方向にレンズ作用を持つこと、イオン光学素子の機械加工と組立ておよび試料位置には誤差が生じること、試料と質量分析器の位置関係は振動によりµmレベルの変動があることを考慮して、シミュレーションによりイオンの飛行軌道を計算した。その結果、加速・引出し電極、2軸2段の偏向電極、主レンズ、アパチャー、1軸2段の偏向電極、垂直拡大レンズ、主スリットの順に光学素子を配置することとした。この二次イオン輸送光学系について機械設計を行い、第一次試作光学系の製作に取り掛かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究実施計画においては、shave-off条件下における二次イオン放出パラメータを計測すること、二次イオン輸送光学系のシミュレーションを行い必要となるレンズその他の電極の仕様を決定すること、決定した仕様に基づいて第一次試作光学系を設計・製作し、その性能を評価することを目指した。 二次イオン放出パラメータについては、スパッタ効率の測定、放出角度分布の測定を行い、光学系を設計するための基礎データを得た。この基礎データをもとに様々な形状のレンズその他の電極に対してイオン光学シミュレーションを実施し、十分な性能が出せると考えられる電極の理論形状を決定した。この理論形状に対して実際の部品設計を行い、第一次試作光学系の製作を行った。 第一次試作光学系部品は理論設計を重視しすぎて加工が困難な形状となり機械加工に長期間を要し、年度内に性能評価を行うことができなかった。試作を複数回行うことは研究開始当初より想定していたことであり、そのために研究が大幅に遅延することはない。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は第一次試作光学系の性能評価まで進まなかったため、2020年度はその性能評価から始める。ただし、すでに改良を要する点が複数確認されているため、速やかに第二次試作光学系の設計にも着手する。具体的には機械加工が容易で、かつ、組み立て精度を得やすく、二次イオン質量分析計への実装や調整がしやすい部品構成に改め、それに伴い再度シミュレーションを行って最適化する。また、レンズや飛行軌道補正電極に印加する必要のある電圧範囲は2019年度に得られた二次イオン放出パラメータから決定することができるため、制御電源の製作も並行して進める。 応募時点では3年計画での研究を想定していたが、改良すべき点が明らかになってきたため、2020年度に一応の成果がまとめられるよう研究を速やかに進める。
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