研究課題/領域番号 |
19H02745
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉村 英哲 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90464205)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バイオイメージング / 生物発光 / RNA / 細胞 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
2019年度は生細胞内遺伝子発現定量発光プローブの開発を行った。本プローブとして標的遺伝子発現産物であるRNAと選択的に結合するRNA結合タンパク質mPUMと発光タンパク質ルシフェラーゼの二分割体からなるものを設計した。標的RNAとして当初計画通りマウス由来βアクチンmRNAを選び、ルシフェラーゼとしては特に輝度の高いNanoLucを採用した。 本プローブの開発と評価のため、まずプローブタンパク質を大腸菌発現系から単離生成し、標的RNAへの結合による発光変化を評価した。単離生成したプローブタンパク質のみの発光測定をした後、標的配列を含む合成RNAを添加すると、発光値の著しい上昇が見られた。そこにRNaseを添加すると、RNA添加前と同等まで発光値が下がった。この結果は本プローブがRNAの存在を検出して発光を示し、RNAが分解すると速やかに発光を停止したことを示している。 また、本プローブ溶液に対し、濃度を変えてRNAを添加した。その結果、RNA濃度 0.2 nM まで発光値の上昇が検出できた。細胞内RNA濃度を踏まえると、この検出感度は細胞内遺伝子発現を検出するために十分な感度であると考えられる。 続いて本プローブをマウス由来培養細胞株であるNIH3T3細胞と、ヒト由来培養細胞株であるHEK293細胞に導入し、細胞サンプルの発光測定を行った。その結果、標的RNAであるマウス由来βアクチンmRNAを有するNIH3T3細胞では優位な発光が検出されたが、標的RNAを持たないHEK239細胞では発光は検出されなかった。この結果より、本プローブは細胞内においても標的RNAを選択的に検出し発光を示すことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究で当初計画した遺伝子発現定量検出分子プローブの開発が完了し、その評価を行った。その結果、想定通り標的遺伝子発現産物であるRNAの増減に応じて発光量を変化させたことに加え、溶液中ではあるが 0.2 nM という非常に希薄なRNAを生物発光により検出することに成功した。細胞の体積で換算すると 0.2nM という濃度は1つの細胞あたり数分子しか存在しない濃度であり、極めて微量の遺伝子発現を検出しうる感度を本プローブは有している。実際に培養細胞を用いた発光測定実験で、標的RNAを有する細胞と有さない細胞とで発光値の明確な差が検出できた。すなわち本プローブは生細胞内での遺伝子発現変化を鋭敏に検出できる性能を有していることが示唆された。 本プローブの性能を発揮し様々な状態における遺伝子発現の定量分析を実現するため、今後は様々な細胞系における遺伝子発現の検出や細胞内局在の解析、微量のRNAを検出できる顕微鏡システムの構築などを行い、1細胞解像度での遺伝子発現可視化検出系の構築が実現する分子基盤を構築することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、本研究の第一目標であった遺伝子発現検出プローブの構築については概ね完成し、その性能においては期待を上回る結果が得られた。今後の研究では、このプローブのより詳細な性能評価を行うと同時に、様々な細胞系において実際の遺伝子発現解析のテストを行う。 性能評価としては、様々なRNA濃度およびプローブ濃度での発光値を測定し、適切なプローブ濃度について検討する。また、RNA添加による発光値の上昇速度やRNase添加後の発光消失速度を解析し、プローブの応答速度について評価する。 細胞における遺伝子発現解析では、発光顕微鏡を用いた1細胞遺伝子発現解析を行い、個々の細胞において遺伝子発現量を変化させた上での発光値の可視化追跡評価や定常状態における発光値の長時間安定性についての評価を行う。また、βアクチン遺伝子の発現およびmRNAの細胞内局在が重要な役割を果たしている各種生理現象について、生細胞顕微鏡観察を行い、生理現象が起こる過程における遺伝子発現の1細胞可視化定量法の確立を目指す。
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