本研究ではRNA結合タンパク質ドメインPUM-HDの変異体mPUMと発光タンパク質の二分割再構成法を利用して、生物発光を用いた生細胞内選択的RNA検出・可視化法の構築を目指すものである。この目的のために、2020年度までにRNA定量発光プローブの設計と開発を行い、生きた培養細胞内における本プローブの性能評価を行った。具体的にはマウス由来β-actin mRNAを標的と定め、標的RNAを発現するマウス由来培養細胞株(NIH3T3細胞)では発光が得られること、およびヒト由来培養細胞株(HEK293細胞)では発光が生じないがHEK293細胞に標的RNAを発現させたところ発光が生じることを確認した。2020年度は本プローブの原理実証として、成長因子刺激を加えた細胞における標的RNAの細胞内局在具体的には経時、NIH3T3細胞を試料としてプローブを発現し、プローブが示す発光を生物発光顕微鏡を用いて2時間にわたり観察した。その結果、成長因子添加後には細胞質において細胞質内に発光を示す下流が複数現れ、細胞が遊走する前方に集積する様子が観察された。成長因子刺激による細胞の遊走と遊走方向への標的RNAの集合、並びに標的RNAを含むストレス下流の形成は既存の報告と一致する結果である。すなわち、細胞生理現象が生じる過程において、本研究で開発したプローブを用いて生細胞内における標的RNAの局在変化を追跡することが実現した。また、NIH3T3細胞以外の系での標的RNA可視化能を評価するため、マウス初代培養神経細胞を試料として標的RNAの観察を試みた。その結果、軸索と樹状突起への標的RNAの局在が観察された。この局在は既に報告されている神経細胞におけるRNA局在と一致している。すなわち。本プローブは様々な細胞において、細胞を生かしたまま内在性のβ-actin mRNAを可視解析できることが示された。
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