研究課題
本申請では、進展著しい超分子センシング分野におけるシグナル増幅センシングの創製を試みることにある。超分子的手法による分析センシングは、弱い相互作用が協同的に働く生体内において精密に設計されているタンパク質や酵素(センサー分子)が特定の糖や抗原など(検体分子)を精緻に識別していることを模倣・補完・代替する人工的手法として注目を浴び、急速に発展しつつある新領域である。本提案では、この進展著しい分野において、申請者が提唱している「Supramolecular Allosteric Signal-amplification Sensing (SASS; 超分子アロステリックシグナル増幅センシング)」という新規な分析手法を確固たる学術基盤とすることを目的としている。今年度では、シグナル増幅リポーターとしてポリチオフェンを用いた機能性センサーの構築に成功している。この増幅機構は、(i)精密に設計された超分子空間での検体の包接に伴う認識部位自身の逐次的構造変化により、(ii)アロステリズム機構によってシグナル増幅高分子への認識情報の伝播を誘起し、(iii)そこから増幅されたシグナルを得るという一連のプロセスを確立した。これまでの化学センサーの戦略では困難と言われている「夾雑系」を標的とするセンシングの統一的発展のためには、従来のLock-and-key principleに基づくセンサー自身の立体的・電子的変化を反映した光学変化を読み取る手法では限界があり、そのパラダイムシフトの端緒となった成果である。
1: 当初の計画以上に進展している
本提案の目的は、生体系におけるアロステリズムに想を得て、離れた認識サイトでの変化を鋭敏に捉えた高分子リポーターからの増幅した光学出力を検出する超分子アロステリックシグナル増幅センシング(SASS)の新概念を実践し、極微小な光学出力の積極的な制御、さらに「如何にしてアロステリズムによって増幅できるのか?」というこれまでの計測科学の限界に挑戦するテーマ設定であり、汎用性の高い分析手法として拡大・展開し最終的には応用・デバイス化まで試みる境界新領域開拓を志向した提案である。本提案は、この新規な分析手法であるSASSの拡大普遍化・デバイス化を目指すものである。つまり、SASSの適用限界の拡大と使用範囲の明確化が、本提案を確固たる学術基盤として確立するための必要不可欠な課題である。これらを達成するための具体的高分子センサーとして、高いポテンシャルを示した共役高分子であるポリチオフェン(PT)を用いるセンシングを行った。その結果、非常に高いシグナル増幅性を示したことから、この領域を大きく発展させた成果と考えており、(1)の当初目的より以上よりも進展している、とした。
これらSASS機能発現を基に材料化へと展開し、そのプロセス技術を確立するためには、さらなるシグナル増幅系の確立が必須である。このために、実績のあるカードラン(Cur)を増幅高分子伝播体として使用していくのが妥当であると考えている。本計画では、糖鎖をCur超分子ホスト(globule)に取り込んだ時の柔軟なCur主鎖のダイナミックな構造変化を光学出力として読み取り、リポーターからのシグナル出力を増幅させる計画を練った。精密に設計した結果、発色団としては凝集誘起発光(AIE)を示すテトラフェニルエチレンが最適であるという結論に至った。Curホストとしてのglobuleに糖鎖が取り込まれてセンシングできる機構は、DMSO中ではリポーター修飾Curがランダムコイル状であるが、ここに糖鎖を水中にて共存させておくと、globule構造中に糖鎖を取り込んだ「高分子-糖鎖超分子錯体」形成に基づく。従って、糖添加に伴う微小なglobuleの構造変化をAIEにて増幅させるという計画である。このような機構に基づく蛍光turn-on増幅センシングを目論むものである。以上要するに、合目的設計による柔軟なホスト構造である水中糖鎖センサーの構築を目指し、これらの設計・機能発現を論理的に展開することでこの分野の確立と本領域への貢献および各分野への波及を目指した計画である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (31件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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