研究課題/領域番号 |
19H02746
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
福原 学 東京工業大学, 理学院, 准教授 (30505996)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分析センサー / 分析化学 / 超分子化学 / アロステリズム |
研究実績の概要 |
本提案では、超分子化学と分析化学の境界領域である「超分子分析化学」分野において進展著しい増幅センシング系の構築を目論むものである。これまでの化学センサーの戦略では困難と言われている「夾雑系」を標的とするセンシングの統一的発展のためには、従来のLock-and-key principleに基づくセンサー自身の立体的・電子的変化を反映した光学変化を読み取る手法では限界があり、そのパラダイムシフトの時期にきていると考えている。研究代表者が提唱している「Supramolecular Allosteric Signal-amplification Sensing (SASS; 超分子アロステリックシグナル増幅センシング)」という手法に基づく新規センサーの開発が、今年度の実績としてあげられる。この概念は、(i)構造特異的に設計されたマイクロ―ナノ識別空間での標的検体の吸着・包接に伴うセンシング部位自身の逐次的構造変化により、(ii)アロステリック効果によってシグナル増幅高分子への伝播を引き起こさせ、(iii)ここから増幅した光学シグナルを得るという手法である。今年度では、SASSのさらなる展開に向け、認識部位が独立して働く化学センサーを構築した。実際にはカチオン認識部位、検体認識部位、リポーター部位を連結したセンサーを設計した。シグナル増幅システムには、エキシトンキラリティー法を利用し円二色性(CD)スペクトルによって認識シグナルを観測した。このときのCDスペクトルの強度は発色団間の距離の二乗に反比例することが知られているため、検体認識による近傍の発色団の接近によって増幅CDシグナルが観測可能となる。以上要するに、カチオン認識部位と検体認識部位がそれぞれ独立して働くことでアロステリズムが機能すると予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請では、従来のLock-and-key戦略を超えて、極微小なシグナル出力を能動的かつ積極的、そして「如何にしてアロステリズムによってシグナルを増幅して計測することができるのか」というこれまでの分析化学への提起とともに、従来の計測科学の限界を極限まで追求することが最終目標である。これを達成するための種々のシグナル増幅センサーの開発が必須となる。1年目で完遂したポリチオフェンセンサーの増幅機構を基に、認識部位が独立して働く化学センサーの構築に成功し、最終目標に近づいたと考えられる。この結果をもって、(2)のおおむね順調に進展している、とした。
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今後の研究の推進方策 |
これらの1,2年目の実績を踏まえ、SASSを更なる強固な学術領域へと発展させるためには、引き続いて、シグナル増幅が可能な化学センサーの構築が必須である。これらを達成するための具体的高分子センサーとして、高いポテンシャルを示した共役高分子であるポリチオフェンならびに非共役高分子であるグルカンを用いる医薬品や特定薬物のセンシングを行う予定である。SASS機構のさらなる原因究明のため、多様なポリチオフェンあるいはグルカンセンサーの精密設計を行い、機能性置換基の導入、環境因子(温度、溶媒、圧力、pHなど)の効果も検討し、この特異なSASS現象の適用限界、本質的な制御因子、機構を実験・理論計算両面から解明する必要がある。得た新知見と手法を駆使して、本センサーの選択性および感度を飛躍的に向上させ、分子レベルで高分子センサーの制御を行いLock-and-key型センサーを凌駕するダイナミックレンジを達成する予定である。
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