研究実績の概要 |
本研究課題は,申請者が独自に開発した逆畳み込みデータ処理法により,一次元半導体X線検出器を装備した汎用粉末X線回折測定システムにより収集されたデータからX線源の分光強度分布および装置収差の影響を除去するための実用的なソフトウェアを開発することを目的とする。2019年度には助成金により一次元検出器 (Rigaku D-tex) を装備した卓上型粉末X線回折測定システム (Rigaku MiniFlex 600-C) を整備し,主に標準試料粉末を用いた装置研究を行った。この際に,現在は最も一般的なデータ収集法である連続走査積算法を用いた。その結果,赤道発散収差と呼ばれる装置収差について,従来仮定していた収差モデルでは観測された回折ピーク形状を再現するためには不十分であることが明らかになった。そこで解析幾何学的な手法を用いて,正確な装置収差モデルと実用的な近似形式を導いた。近似モデルをデータ処理ソフトウェアに実装し,実測データの処理に適用したところ,収差による影響が除去されることを実証し,この結果は T. Ida, "Equatorial aberration of powder diffraction data collected with an Si strip X-ray detector by a continuous-scan integration method", J. Appl. Crystallogr., 53 (2020) [doi: 10.1107/S1600576720005130] として 2020年5月に出版された。 さらに,極端に回折角度が低い場合あるいは試料の幅が極端に狭い場合にも逆畳み込み処理が有効となりうる形式を導いた。この結果の有効性を検証するための実験計画を検討しているところである。
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