研究課題/領域番号 |
19H02749
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
青柳 忍 名古屋市立大学, 大学院システム自然科学研究科, 教授 (40360838)
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研究分担者 |
上野 裕 東北大学, 理学研究科, 客員研究者 (00775752)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 内包フラーレン / 分子検出 |
研究実績の概要 |
液体および気体中に含まれる微量分子を、リチウムイオン内包フラーレン(Li+@C60)の高い電子捕捉能を利用して、電気化学的に高感度検出する新しい原理の分子検出技術を確立する。検出対象とする標的分子の価電子をLi+@C60によって選択的に引き抜き輸送することで、液体および気体中の標的分子の濃度を、従来を上回る高い感度で選択的に計測することを目指す。本研究によって提案・確立される分子検出技術は、人間の呼気や尿中に含まれるがん患者特有の化学物質検出による初期がんの早期発見や、大気・土壌・水質の汚染物質検出による環境の測定・改善などに広く利用できる。 2019年度は、主にLi+@C60超分子錯体の合成と特性評価に加えて、そのラングミュア・ブロジェット(LB)膜の作製を検討した。Li+@C60超分子錯体の電子捕捉能を調整することで選択的な分子検出を達成するために、フッ素原子を導入した陰イオン性ポルフィリン誘導体を新規に合成し、Li+@C60と組み合わせた。その結果、フッ素原子のないポルフィリン誘導体を用いた場合よりも酸化されにくく、電子捕捉能の高いLi+@C60超分子錯体を得ることに成功した。Li+@C60超分子錯体を電極表面に均一かつ再現性良く固定化するために、LB膜法による成膜を試みた。その結果、従来用いられていた電着法に比べてより均一かつ再現性の高い成膜が可能であることを確認した。2020年度は、LB膜の成膜条件を最適化して透明電極上にLi+@C60超分子膜を作製し、その分子検出特性を評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、主にLi+@C60超分子錯体の合成と特性評価に加えて、そのラングミュア・ブロジェット(LB)膜の作製を検討した。Li+@C60をポルフィリンなどの色素分子と組み合わせることで可視光領域に強い吸収を示す超分子錯体が得られる。本研究ではこのLi+@C60超分子錯体の電子捕捉能を調整することで選択的な分子検出を達成する。Li+@C60超分子錯体の電子捕捉能を高めるため、フッ素原子を導入した陰イオン性ポルフィリン誘導体を新規に合成し、Li+@C60と組み合わせた。光吸収スペクトル測定により超分子形成を確かめたのち、その酸化還元特性を微分パルスボルタンメトリーにより測定した。得られたLi+@C60超分子錯体は、フッ素原子のないポルフィリン誘導体と組み合わせたLi+@C60超分子錯体に比べて酸化されにくく、フッ素原子導入によりLi+@C60超分子錯体の電子捕捉能を高めることに成功した。また、表面にLi+@C60超分子錯体を分子膜として固定化した電極の作製も試みた。均一な分子膜を再現性よく得るために、LB膜法を採用することにした。予備的な実験結果として、従来用いられていた電着法に比べて、より均一かつ再現性の高い成膜が可能であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、LB膜の成膜条件を最適化して透明電極上にLi+@C60超分子膜を作製し、その分子検出特性を評価する。LB膜は、水面上に展開した両親媒性分子を表面張力一定の条件で固体基板上に転写することで得られる。Li+@C60超分子錯体は両親媒性ではないため、溶液中に両親媒性の分子を共存させるなどの工夫を行うことで、透明電極上に均一なLi+@C60超分子膜を作製する。Li+@C60と組合わせる色素分子には、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体を用い、溶媒や陰イオン、両親媒性分子の種類を変えた様々な条件でLB膜の成膜を試みる。得られたLi+@C60超分子膜の構造は、光吸収スペクトル測定やX線回折などにより評価する。電気化学測定により、得られたLi+@C60超分子膜の分子検出特性を評価する。Li+@C60超分子膜電極を正極とし、電解液中に微量に含まれる検出対象分子の濃度と光電流の相関関係を、電気化学アナライザーを用いて調べる。検出対象分子として、がん患者の尿中に多く含まれる化学物質であるプロポフォールなどを予定している。
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