研究課題/領域番号 |
19H02755
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
徳永 信 九州大学, 理学研究院, 教授 (40301767)
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研究分担者 |
山本 英治 九州大学, 理学研究院, 助教 (70782944)
村山 美乃 九州大学, 理学研究院, 准教授 (90426528)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 金 / パラジウム / 白金 / ジルコニア / セリア / 担持触媒 / ソフトルイス酸機能 / アルケン活性化 |
研究実績の概要 |
ソフトルイス酸機能は、アルケン、アルキン、芳香族などのπ電子を活性化する機能で、例えば均一系の金錯体触媒の機能はほぼ全てこれに該当する。金錯体触媒によるアルケンやアルキンの変換は有機合成への応用を中心に大きく発展しているが、触媒回転数や再利用性に問題があり実用性は不十分である。錯体触媒では0価への還元と凝集による失活、さらには生成物との分離が困難で、実用性を損なうクロマトグラフィーが必要という問題がある。一方、Au(0)の担持ナノ粒子触媒のほとんどの機能は酸化還元触媒である。そもそも0価の金属がルイス酸として働くのかどうかという疑問もあるが、我々はAu (0)ナノ粒子が、ソフトルイス酸機能を持つことを見出している。しかし、触媒の設計指針が確立されてないので、これに取り組み一定の成果を出した。ソフトルイス酸機能を持つ担持貴金属は、パラジウム、白金、金があり、それぞれの金属で作用機序が異なっている。また、金属の酸化されやすさなどの違いにより、触媒活性を最適化させる原理も異なる。これまで検討している6種類のソフトルイス酸機構を含む反応で得られた情報を整理したところ、金は基本的に0価金属が活性種で粒子径は小さいほど活性は高いことがわかった。アリル異性化反応として取り組んでいる3,4-DABE異性化反応では、この傾向が明確になった。さらに流通式反応では、この傾向が顕著になり、粒子径の増大が触媒の失活と直接関係していることが明らかになった。またパラジウム触媒では、粒子径が小さいほど高活性になるなるわけではなく、最適な粒子径が存在することがわかりつつある。これはPdの粒子径が3 nm以下になると、活性が低いPdOの割合が増えるためである。また、白金触媒系ではハロゲンが重要な役割を果たすことが分かり、現在、データをまとめて論文執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎化学品の合成法として重要な3,4-DABE異性化反応では、金や白金の粒子径やガス雰囲気下、ハロゲンなどの配位子の環境による活性への影響を明確にすることができた。この反応は可逆反応であり、3,4-DABEと1,4-DABEの平衡は37/63である。昨年度までに明らかにしているように、金ナノ粒子触媒は、担体により活性の差がある。市販の不均一系金触媒であるAu/CおよびAu/SiO2は、活性は高くなかった。いくつかの金属酸化物を担持した不均一系金触媒では、単斜晶系酸化ジルコニウム(m-ZrO2)を担持した金触媒は、この反応で約58%の収率を示した。同じ反応条件で、正方晶系酸化ジルコニウム(t-ZrO2)とアモルファス系酸化ジルコニウム(mor-ZrO2)では、1,4-DABEを6%しか生成しなかった。さらに、酸性度を高めた酸化ジルコニウム担体SO4-ZrO2もテストしたが、収率はm-ZrO2ほど高くはなかった。単斜晶系酸化ジルコニウムに担持した金触媒について、条件検討を行った。焼成温度を150-600℃に変化させたところ、200℃焼成の触媒が最も活性が高かった。この触媒について、TEM(走査透過型電子顕微鏡写真)画像から計算された平均粒子径は2.4±0.7nmであった。XRD(粉末X線回折)パターンでは、38°付近のAu 111の反射ピークはいずれの焼成温度のものでも、鋭いピークは観察されなかった。白金触媒系ではハロゲンが重要な役割を果たすことが分かった。塩化物イオンが存在していると、4価の白金活性種の活性が極めて大きくなる。触媒回転数は5000回を超える。反応系中で徐々に失活するが、希塩酸等で処理することにより、活性を復活させることができる。触媒活性種の変化について、X線光電子分光やX線吸収分光で明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
3,4-DABEと1,4-DABEの異性化反応については、担持金ナノ触媒でのバッチ反応における最適化はかなり進んだ。今後、流通式反応での条件検討、最適化をする必要がある。これまでの流通式反応の結果としては、内径10 mm、長さ50 mmの円筒形の反応容器に、2 wt% Au/ZrO2を600 mg、残りの部分に海砂(30-600 microm、30-50 mesh)を詰め、溶媒を用いずに3,4-DABEのみを1 mL/hで流通させたものがある。反応容器は150℃に加熱し、48時間まではO2を 2 mL/min、それ以降は4 mL/minで流通させた。背圧弁は開放の状態 (1 atm) で実験を行った。その結果、200時間で収率は低下せず、TONは10000を超えた。ただし、反応前と反応後の触媒を電子顕微鏡で比較すると、金の粒子径が2.4±0.7 nmから5.4±2.4 nmへと増大していることが分かった。触媒の失活の原因は、主にこの金ナノ粒子の粒子径の増大であると考えられる。また、酸化ジルコニウムを希釈して反応容器に詰めるための海砂などの工夫も必要になる。反応容器の目詰まりや、それに伴う酸素、基質の流速の不安定化、結果として生じる金ナノ粒子の粒子径増大などにつながっている。3,4-DABE異性化反応以外では、アルキニルカルボン酸の環化反応や、1,4-DABEからの直接的THF合成反応なども検討する予定である。これらの反応でも担体が重要である。アルキニルカルボン酸の環化反応では、ジルコニアやセリアの種類だけでなく、塩基の種類と量が重要であることも分かりつつあるので、これらの研究を進めたい。
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