研究課題/領域番号 |
19H02756
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小川 昭弥 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30183031)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グリーンサステイナブルケケミストリー / 環境化学 / 有機典型元素化学 / 色素合成 / 医薬品合成 |
研究実績の概要 |
昨年度までは、サリチル酸誘導体を有機触媒としたメタルフリーかつ穏和な反応条件で進行するアミンの常圧酸素酸化法を検討し、系中で発生させたイミンを後続の反応に直接利用したワンポット反応系の構築に取り組んだ。その結果、代表的な多成分連結反応であるUgi反応が3成分連結反応として良好に進行することを明らかにした。そこで本年は、この3成分Ugi反応を2種類のアミンを用いた4成分Ugi 反応に応用し、広範囲のジペプチド類の合成に成功した。さらに、イミンを鍵中間体とする多成分反応として、3置換ピリジン誘導体の合成に取り組んだ。その結果、2分子の芳香族ケトンと1分子のアミンの酸化的縮環反応が、ルイス酸共存下サリチル酸誘導体を有機触媒として用いることで効率よく進行し、3置換ピリジン誘導体を最高収率91%で合成することに成功した。本反応の一般性を明らかにするために、約30種類の3置換ピリジン誘導体を合成し、本手法の多様性を明らかにした。さらに3置換ピリジン合成法を医薬品合成に応用するために、グアニン四重鎖認識分子の短縮合成を検討し、7種類のグアニン四重鎖認識分子を52~65%の収率で合成することに成功した。 さらに、これらの反応を工業的な製造を視野に入れて、サリチル酸誘導体ではなく、より安価なサリチル酸そのものを有機触媒に用いたグラムスケールでの合成に展開した。まず、アミンのイミンへの酸化についてサリチル酸を有機触媒として用いて、常圧酸素酸化反応の最適化を行ったところ、無溶媒条件下で100 mmolのアミンから94%の収率でイミンが合成できることが明らかとなった。さらに、3置換ピリジン誘導体の合成についてもサリチル酸触媒により反応条件を検討したところ、現段階では69%の収率で3置換ピリジン誘導体が生成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機能性材料や先端医薬品の領域では、これまで以上に高純度化と環境調和性が要求されるようになっている。この様な背景の中で、機能性材料や医薬品を構成する主要有機分子に含窒素化合物があり、本研究では、広範囲の有用含窒素化合物を高純度かつ環境に負荷を与えない手法で合成できる新手法の開発を検討している。生成物への金属の混入を避けるため、メタルフリー条件下の反応を取り上げ、アミンからの酸化的脱水素反応によりイミンを鍵中間体として発生させ、これを単離することなく次の反応を行うことで、省資源化と利便性を追求していく。本年までの研究では、サリチル酸誘導体を有機触媒として用いるイミン合成に成功し、これを利用して多成分連結反応を計画し、すでにUgi反応によるジペプチド合成、およびグアニン四重鎖認識分子である3置換ピリジン誘導体の合成に成功した。さらに、本メタルフリー酸化手法がグラムスケールでのサリチル酸触媒によるイミン合成と3置換ピリジン合成に応用可能であることを示し、研究は計画通り順調に進んでいる。これらの研究成果は、「イミン化合物製造用触媒及びイミン化合物の製造方法」というタイトルの特許として登録され、さらに学術論文としてアメリカ化学会のJ. Org. Chem.誌とACS Omega誌に各1報が掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
本年までの研究成果を踏まえて、次年度はサリチル酸触媒によるアミンの常圧酸素酸化法を機能性色素のメタルフリー合成の開発に応用する。Ugi反応や3置換ピリジン合成の成功により、サリチル酸触媒によるイミン合成法は、イミンを鍵中間体とする含窒素化合物の連続合成を阻害することなく、多様な置換体を与えることが可能であることが明らかとなった。従って、one-pot反応や、イミンの単離工程を省略した連続反応で機能性色素を合成可能と期待される。現在、インクジェットプリンター用インキや染料としての需要が重要な青色色素は、クロムや鉛などの重金属酸化剤を利用した環境負荷の大きな製造法により国外で製造されており、環境保持の観点から非常に問題の大きなプロセスとなっている。本研究では、青色色素の合成をメタルフリーで安全な合成法に転換すべく、サリチル酸触媒でのイミン合成法を利用する青色色素合成を詳細に検討する。すなわち、ベンジルアミンから生成させたイミンに、2分子のアニリン誘導体を反応させることで、トリアリールメタン誘導体の環境調和型合成法を確立する。ベンジルアミンのベンゼン環の代わりにヘテロ芳香族を有するアリールメチルアミンを用いることで、電子的効果により色調の調整を図る。さらに、トリフェニルメタンの中心のメチン基が酸化を受けやすいので、これを阻害するため、メタ位にメチル基や塩素などの置換基を導入したアニリンを用いることで、青色色素の安定性の向上を図る。
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