研究実績の概要 |
円偏光を用いた直鎖高分子への不斉誘起の研究対象を、これまで検討してきたフルオレン-2,7-ジイル型単位およびベンゼン-1,4-ジイル型単位を基礎とする折れ曲がりの無い高分子から、折れ曲がり構造を導入した高分子へと拡張した。加えて、これまでの円偏光法の主な適用対象が規則的な化学構造(モノマー単位配列)を有する高分子であったの対し、ランダム共重合により得られる不規則な化学構造を有するに対して適用した。折れ曲がり構造を有する高分子として数種のポリベンゼン-1,3-ジイル型単位を有するポリベンゼン類を合成し、円偏光法による光学活性化を検討したところ、効率よくキラル構造を構築できることが明らかになった。また、数種のベンゼン-1,4-ジイル型モノマーのランダム共重合により得られた高分子が、円偏光照射により従来検討した他の高分子より相当に高い効率で光学活性化することを見出した。本研究ではこれまでに、円偏光法を効率的に利用するためには(a)鎖間の相互作用の強い規則的な固体構造、および、(b)固体中で10msec程度の時間スケールで内部回転する高分子構造、の2つの要因が重要であることを明らかにしており、これらの必ずしも両立しやすくはない2つの特徴が、折れ曲がり構造の導入およびモノマー単位のランダム配列により実現されたものと考えられる。これらの構造の導入により分子間のパッキングが密になり過ぎず内部回転の時間スケールが最適に調整される可能性が高い。
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