研究課題/領域番号 |
19H02761
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石曽根 隆 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (60212883)
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研究分担者 |
後関 頼太 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (20592215)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高分子合成 / 定序性高分子 / リビングアニオン付加反応 / 非重合性ビニルモノマー / 1,1-ジフェニルエチレン |
研究実績の概要 |
2020年度は、一連の新規ビニル化合物の単独重合性、反応性の検証と鎖末端定序性官能基化ポリマーの合成を行い、定序性BAAB型4量体オリゴマーの精密合成についても検討を行った。1)リビングポリスチレンやリビングポリイソプレンなどのポリマー鎖末端アニオンと、1,1-ビス(4-(1-アダマンチルカルボニル)フェニル)エチレン(Ad2E))または1,1-ビス(4-シアノフェニル)エチレン(CN2E)付加反応を検討した。求核性の強いリビングポリマーを直接用いると、カルボニル基やシアノ基に対して副反応が部分的に起こることが示唆された。一方、上記リビングポリマーアニオンに一度1,1-ジフェニルエチレン(DPE)によって1:1反応を行い、求核性を低下させたDPEアニオンを使用した場合には、副反応無くAd2EやCN2Eとの1:1付加反応が定量的に進行し、 末端に1ユニットのみが導入できることを見出した。2)同様の反応を二つのピリジン環を有する1,1-ビス(2-ピリジル)エチレン(Py2E)を用いて行った場合にも、1:1付加反応が定量的に進行し、末端にPy2Eユニットが導入できた。さらに、生成したPy2EアニオンとCN2Eとの連続的なアニオン付加反応が進行し、DPE-Py2E-CN2Eの3連続ABCユニットを鎖末端に有するポリスチレンが定量的に得られることを見出した。他にも、電子供与性のトリアルキルシリロキシ基(SiO2E)や、中程度の電子求引性基であるブロモ基(Br2E)、エチニル基(TMSE2E)を有するDPE誘導体を使用することで、SiO2E-Br2E-CN2EやDPE-TMSE2E-CN2Eなど様々なABCユニットを有する末端定序性官能基化ポリマーの合成に成功した。こうしたDPE誘導体骨格から構成される定序性高分子の合成において、置換基の電子的効果が重要であることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は概要に記載した通り、2019年度に引き続き、末端定序性官能基化反応の検討を行い、コロナ禍においても、研究を概ね予定通りに進めることができた。具体的には、概要にも示した一連のDPE誘導体であるSiO2E,DPE,Py2E,Br2E,TMSE2E,Ad2E,CN2Eを用いた逐次的な添加反応を行うことで、鎖末端に定序性ユニット(2,3連子)を有する一連の官能基化ポリマーの合成に成功した。DPE誘導体の反応は、添加する化合物の反応性が向上する順番に、一方向にのみ進行することが明らかとなり、本研究の鍵となるリビングアニオン付加反応の発想が正しいことが確かめられた。また、ここまでに明らかにした末端官能基化反応と相対的なDPE誘導体の反応性の結果を踏まえ、鎖中央のポリマーセグメントを取り去った定序性ユニットのみから構成されるオリゴマー類を合成した。実際には、アルカリ金属ナフタレンを用いてDPE誘導体ジアニオンを生成させ、続いて別種のDPE誘導体を添加することで定序性BAAB型4量体オリゴマーを高収率で合成した。BAAB型ジアニオンはさらに別種のDPE誘導体や求電子試薬と反応が可能であり、定序性CBAABC型6量体オリゴマーや両末端にビニル基を有する二官能性定序性オリゴマーが得られることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、これまでに合成した鎖末端官能基化ポリマーの物性評価、反応性の検証を行う。予備的な実験結果として、鎖末端に嵩高いアダマンチル基を有するポリマーのガラス転移温度が顕著に上昇することを見出している。また、鎖末端の反応性基(カルボニル基やエチニル基)に対する反応を行い、H型高分子や、さらに複雑な分岐ポリマーの合成を行う予定である。一方、2020年度に合成した定序性オリゴマーの結晶構造解析にも挑戦し、その定序性オリゴマー同士のカップリング反応を利用して、シーケンスを制御した定序性高分子の合成を行う。このオリゴマーの合成研究と、引き続くカップリング反応による定序性高分子の合成を推進するために、原料のDPE誘導体(SiO2E, Br2E,TMSE2E,Ad2E,CN2E)の大量合成を開始している。DPE誘導体に加えて、α-アルキル置換スチレンやN,N-ジアルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキル-α -フェニルアクリルアミド、α-フェニルアクリル酸エステルなどの低重合性ビニル化合物のリビングアニオン付加反応を利用して、鎖末端定序性ポリマー、定序性オリゴマーの合成についても検討する。
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