研究実績の概要 |
電子スピン共鳴分光(Electron Spin Resonance)法を用いてラジカル重合反応の詳細を明らかにする研究を行っている。その中でも電気化学セルとESRとを組み合わせた電解ESR法はこれまで測定する方法がほとんどなかった短寿命で不安定なラジカル種の酸化還元電位を正確に見積もられる可能性がある。最も重要な目標は成長ラジカルの酸化還元電位を見積ることである。これまでの研究で、種々のモノマーのラジカル重合過程に生じる成長ラジカルのESRスペクトルの高感度・高解像度の測定を行ってきた。この測定はほかの研究室ではなかなかうまくいっていない測定で、この結果をもとに電解測定を行う。 2019年度は新しい電解ESRセルの開発に向けてもともとあったESR装置を改良し、感度の向上に向けた改造を施すとともに、新規電解セルの設計を行った。電極の位置によるスペクトル感度の差などの点検も行った。 既知の電解ESRの測定ができるかどうかを確かめながら、徐々に不安定なラジカル種の測定と電解条件下の測定を行っていく。研究対象としてはまず安定ラジカルであるTEMPO(TEtraMethyl PiperidinOxy)を用い、電位を掃引しながらESRスペクトルを観測して、スペクトルの出現消滅と電位のとの関係を調べる。その次の段階として、開始剤から発生させたラジカルについて調べる。ラジカル開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(TMDPO)を用い、光照射下でラジカルを発生させてTEMPOと同様に電位とスペクトルとの関係を調べる。そのうえで、実際の成長ラジカルのスペクトルを用いて電位とスペクトルの関係を調べる。 研究としてはおおむね当初の予定通り進行していて、2020年度に本格的な測定を始める予定である。
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