電子スピン共鳴分光(Electron Spin Resonance)法を用いてラジカル重合反応の詳細を明らかにする研究を行っている。その中でも電気化学セルとESRとを組み合わせた電解ESR法はこれまで測定する方法がほとんどなかった短寿命で不安定なラジカル種の酸化還元電位を正確に見積もられる可能性がある。最も重要な目標はラジカル重合の成長ラジカルの酸化還元電位を見積ることである。 2019年度から2021年度にかけて、新しい電解ESRセルの開発に向けてもともとあったESR装置を改良し、感度の向上に向けた改造を施すとともに、新規電解セルの設計を行った。研究対象としてはまず安定ラジカルであるTEMPO(TEtraMethyl PiperidinylOxyl)を用い、電位を掃引しながらESRスペクトルを観測して、スペクトルの出現消滅と電位との関係を調べた。この系では電解ESRの測定によって、酸化還元電位を見積ることができた。しかし、本来の目的であった実際の成長ラジカルの酸化還元電位とESRスペクトルとの対応はごく弱い相関しかまだ観測されていない。うまく測定できた系に比べて、ラジカル濃度が100分の1から千分の1程度と低いことが主な原因と考えているが、ラジカルの寿命そのものも非常に短くなっているので、こちらに原因があるのかもしれない。問題を解決するためには成長ラジカルの検出感度をさらに1桁向上させるか、電解測定の感度を向上させるか、あるいはその両方が必要になると考えられる。本研究課題を通じて、さらにいくつかの問題を解決する必要があることが明らかとなったが、問題を解決して得られる結果は化学の基礎として極めて重要な情報を提供し、多くの化学者にとって有益なデータを提供できると考えている。
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