研究課題/領域番号 |
19H02776
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
則末 智久 京都工芸繊維大学, 材料化学系, 教授 (40324719)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超音波 / 微粒子 |
研究実績の概要 |
濃厚溶液中のナノ・ミクロン微粒子の分散状態を、希釈・乾燥することなくそのままの状態で評価する超音波法による構造・物性研究を行った。この超音波散乱解析は、微粒子から散乱する信号を捉え、運動状態やミクロ構造を解析する新しい手法である。本研究では、液体中に分散する微粒子の(1) 粒径分布、(2) 液中の粒子1個の弾性率に加えて、新たに(3)電場や力学的刺激に対する応答を同時に定量化できる超音波システムを開発した。特に、燃料電池電極用スラリーの分散安定性、Pickeringエマルションの局所構造解析、抗原抗体反応のモニタリング、ナノバブルの検出など、気体・液体・固体を問わない分散系の新しい解析が期待される。 今年度は特に、電気泳動超音波解析技術(Electrophoretic Sound Scattering, ESS)法の基本開発と、カーボンスラリーやイオノマーを被覆した疎水性ポリマー微粒子の運動状態の研究を行った。電場印加に伴う動的解析を行えば、微粒子のポリマー被覆環境を調べることができるので、運動解析からイオノマーが微粒子を被覆する状態や、粒子表面の浸透圧の増加によってむしろ凝集する状態など、濃厚系/着色系でイオノマー濃度に依存した微粒子の構造を解析した。濃厚系までを視野に入れた適切な行路長のセルをデザインし、電気的に励振したパルス信号を超音波センサーに印加して超音波信号を発生させた。その散乱波を高速デジタイザに接続したセンサーで記録した。粒子の泳動は矩形交流高圧アンプで電場増幅し、粒子に周期的微動を与えて読み取った。印加時間や印加電圧、パルス繰り返しレート、記録長、入射角などのデータを記録・整理し、このシステムの確立を行った。シリカ微粒子懸濁液で60wt%程度の濃度までのゼータ電位が正しく直接計測できる技術を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ESSシステムは順調に開発できており、超音波という光と比べて長い波長を有しながらも、ミクロンからサブミクロン、さらにはナノメートルの計測を目指している。今年度は、ほぼ予定通りにミクロン粒子の実験が進み、かつカーボン粒子についてはサブミクロンやナノメートルの微粒子の運動解析も行った。概ね順調に進展しているので、次年度はこのESS法を活用しながら、これまで開発してきた超音波散乱法を組み合わせてエマルションや懸濁液の構造物性研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
電気泳動超音波散乱(ESS)法を駆使したさらなる進展としてナノメートルからマイクロメートルの様々な大きさの微粒子に対し、イオノマー被覆微粒子のダイナミクスと構造解析を行う。カーボンの研究は初年度に行えたが、カーボン粒子はそもそも単体で存在せずかなり硬い凝集体を形成していることが明らかとなった。そこで、疎水性の標準ポリマー微粒子をモデル系としてイオノマーの被覆環境を調べる予備実験を行ったところ、溶媒や分散剤の影響を効果的に解析できる可能性が高まった。そこで今年度は、ポリスチレン系のポリマー微粒子をモデル系として幅広い粒径の効果に注意しながら研究を進める。ESS法はミクロンサイズから徐々にナノ粒子への適用を目指して開発を続ける。 また固体微粒子を被覆した油滴としてPickeringエマルションの構造解析が興味深い。Oil(ヘキサデカン)in-Waterエマルションに化学修飾を施したシリカナノ粒子もしくはポリスチレンナノ粒子で安定化させたPickering エマルションの調製と超音波解析を行い、独自のコアシェル散乱モデルで解析を行う。この結果を元に、シリカ層の濃縮効果や、被覆率、安定性を明らかにする。
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