研究課題/領域番号 |
19H02779
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
奥村 泰志 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (50448073)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高分子安定化ブルー相 / PSBP / 超解像顕微鏡 / STORM |
研究実績の概要 |
高分子安定化ブルー相(PSBP)は、光重合で生成した高分子が液晶ブルー相中の配向秩序が低い線欠陥領域に沿って凝集することで安定化される。しかし液晶ブルー相にアクリレートモノマーを約8 wt%添加して安定化する標準的なPSBPでは、線欠陥への凝集が不十分である可能性が小角X線散乱により示唆されている。一方、メタクリレート系モノマーを約8 wt%添加した場合では、線欠陥に沿った高分子の凝集が小角X線散乱により確認されたが、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)による三次元蛍光観察からは、線欠陥に入り切らなかった過剰な高分子がPSBPの板状組織から排除されること、そして過剰な高分子が排除されても高分子安定化に問題が無いことが確認されている。そこでモノマー濃度の更なる低減が可能と考えた。本研究の目的である粘弾性相分離型PSPBを作製する上で、その液晶リッチ相側でのPSBPの高分子ネットワークを線状欠陥に沿った均一で無駄の無いものにすることは駆動電圧の低減と応答速度の向上を実現する上で不可避である。本年度は、先行研究より良い性能が現れるメタクリレート系モノマーとメソゲンコア部に柔軟なアルキルスペーサーを導入した二官能性モノマーを使用し、モノマーの分子構造や組成を最適化することにより、モノマーが低濃度でも広い温度範囲で安定かつ低電圧応答を示す均一な高分子ネットワークを有するPSBPを作製した。また超解像顕微鏡であるSTochastic Optical Reconstruction Microscopy (STORM)を導入し、PSBP中の高分子ネットワークを約20 nmの分解能で観察できる体制を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粘弾性相分離型PSPBにおける理想的な液晶リッチ相である、過剰な高分子を排除したPSBPの作製に成功し、モノマー濃度を従来の標準試料から約4割削減しても熱力学的な安定性が優れていて、残留複屈折を悪化させること無く駆動電圧を14%低減できる組成を見出した。超解像顕微鏡の導入に時間を要して納品が年度末になったが、PSBP中の高分子の10ナノメートルオーダーでの観察が可能になった。今後、粘弾性相分離型PSBPも含めて、PSBP中の高分子ネットワークの多様な世界が明らかになると期待される。以上のように、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
R2年度はモノマー濃度を低減したPSBP中の高分子のSTORM観察を行い、ブルー相の線欠陥に沿って高分子が理想的に配列して形成される高分子ネットワークの実空間観察に挑戦する。また、粘弾性相分離型PSBPの作製、その共焦点レーザー走査顕微鏡およびSTORM観察と電気光学応答の評価を通して、粘弾性相分離型PSBPの作製条件の最適化を進める。研究の遂行上問題は生じていない。
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